「羊をめぐる冒険」の謎・ネタバレ(2/2)

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※この記事では、講談社文庫版の下巻のみについて記述しています。
 上巻についての記事はこちら

 

調べたくなる言葉

◆ゴールデンゲート橋

 ゴールデンゲートブリッジ、金門橋とも。
サンフランシスコ湾に掛かる吊り橋で、1937年に完成した。
全長は2,737mあり、37年から64年まで世界一の吊り橋であった。
いるかホテルから見えるビルで働いている乳房の大きな女事務員を見て、
「僕」はこの橋のワイヤ・ロープのようなブラジャーを使っているのだろうと推測した。

 

◆バックス・バニー

 アメリカのアニメ「ルーニー・テューンズ」に登場するウサギのキャラクター。
灰色の身体に、白い手袋を着けていることが特徴。
アメリカでは1930年から69年にかけて短編映画として制作され、
日本では、60年代から「バッグス・バニー・ショー」や、
「バッグス・バニーとゆかいな仲間たち」のタイトルで放送された。
作中では、いるかホテル滞在8日目に、「僕」が再放送を見る場面が登場する。

 

◆白鯨(ハーマン・メルヴィル)

 1851年に発表された長編冒険小説。
作者は、1819年アメリカ・ニューヨーク生まれの小説家。
捕鯨船で働いた経験を元に、「白鯨」をはじめとする海洋小説を著した。
語り手である船乗りイシュメイルらが、捕鯨船ピークォド号に乗り込み、
船長エイハブの片足を奪った巨大なマッコウクジラ、「モビー・ディック」を
追い掛けるというあらすじ。
作中では、いるかホテルの支配人が何かを探し求めることへの憧れから、
ドルフィンホテルと名付けたエピソードが紹介されている。
(「白鯨」にいるかが出てくるシーンがあった)
また、余談だが、登場人物の一等航海士、スターバックは、
アメリカ・シアトルのコーヒーチェーン、
スターバックス・コーヒーの由来となっている。

 

◆スクリャービンのピアノ・ソナタ

  アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービンは、
1872年現在のロシア・モスクワ生まれの作曲家、ピアニスト。
自身がピアニストであったことからピアノ曲、とりわけピアノ・ソナタを
多く残しており、生涯で10曲以上も残した。
作中では、十二滝町に向かう電車の中で、スクリャービンのピアノ・ソナタに
聴き入る音楽評論家のような顔つきで空間の一点を睨む太った中年女性が登場した。

 

◆スイスのロビンソン(ヨハン・ダビット・ワース)

 1812年に出版された児童文学。
ダニエル・デフォーのロビンソン・クルーソーを下敷きにした二次創作作品。
牧師の作者が、自分の子供たちに読み聞かせた物語を、子供の一人がまとめた。
ロビンソン一家が乗った船が、難破し、無人島に流されてしまうが、
彼らはそこで手に入るものを上手く使いながら、
快適な生活を作り上げていくというあらすじ。
「スイスファミリーロビンソン」のタイトルで、
1960年ディズニーによって実写映画化されている。
その縁で?、東京ディズニーランドに「スイスファミリー・ツリーハウス」という、
ロビンソン一家が暮らした樹上家屋を再現したアトラクションがある。
作中では、鼠の父親の別荘の周りを樹木が取り囲み、
樹上家屋のようになっていたと描写されている。

スイスファミリー・ツリーハウスのイメージ2
「スイスファミリー・ツリーハウス」東京ディズニーリゾート公式サイト 
URL:https://www.tokyodisneyresort.jp/tdl/attraction/detail/155/

 

◆ナット・キング・コール「国境の南」

 「国境の南」はジャズのスタンダードとして、多くの歌手に歌われている。
元々は1933年の同名の映画で使われた楽曲。
また、村上春樹の7作目の長編小説のタイトルにも用いられている。
(国境の南、太陽の西)
ナット・キング・コールは1919年アメリカ・アラバマ州生まれの
ジャズピアニスト、歌手。
鼠の別荘で一人になった「僕」が、でたらめに選んだレコードから流れた曲。
「僕」は部屋の空気が1950年代に逆戻りしたようだと感想を述べている。

 

◆アラモ

 1960年に公開された映画。
メキシコ共和国軍とテキサス分離独立派軍によるテキサス独立戦争中の戦いの一つ、
アラモの戦いを題材にしている。(当時テキサスはメキシコの一部だった)
鼠の別荘で「僕」が開いた古い映画雑誌のグラビアで紹介されていた映画だった。

 

◆パーシー・フェイス・オーケストラの「パーフィディア」

 パーシー・フェイスは1908年、カナダ・トロント生まれの作曲家、指揮者にして
音楽プロデューサー。自らが指揮者として率いたパーシー・フェイス・オーケストラは、
グラミー賞を受賞し、9週連続全米1位を記録した「夏の日の恋」や、
10週連続全米1位を記録した「ムーラン・ルージュの歌」など、
多くのヒット曲を残した。
パーフィディアは、1939年に、メキシコのマリンバ奏者、
アルベルト・ドミンゲスが作曲。その後多くの歌手により歌われた。
パーフィディアとは、裏切りを意味するスペイン語。
作中では、鼠の別荘で「僕」がシチューを食べる際に聴いていた。

 

◆シャーロック・ホームズの冒険(アーサー・コナン・ドイル)

 1892年に刊行された、シャーロック・ホームズシリーズの短編集。
「ボヘミアの醜聞」「赤毛組合」「まだらの紐」などが12編が収録されている。
5つある短編集のうち、最初のもの。
「僕」は鼠の別荘のベッドの中でスタンドの灯りで読んだ。
ちなみに、「僕」は最後の短編である「事件簿」を先に読んでいる。
(上巻の「事件簿」の記事参照)

 

◆ビング・クロスビーの「ホワイト・クリスマス」

 ビング・クロスビーは、1903年アメリカ・ワシントン州出身の俳優、歌手。
俳優としては、「我が道を往く」でアカデミー主演男優賞を受賞するなど、
ハリウッドのトップスターとして活躍した。
歌手としても、13曲で全米1位に輝き、中でも「ホワイト・クリスマス」は、
全世界で5,000万枚を売上げたとされるなどマルチに活躍した。
作中で「僕」は26回繰り返してこの曲を聴いた。

 

 

◆ベニー・グッドマンの「エアメイル・スペシャル」

 ベニー・グッドマンは1909年アメリカ・シカゴ生まれのクラリネット奏者。
スウィングの王様と称される。
エアメイル・スペシャルは、1941年のナンバー。
「僕」は鼠が初めて買ったギターでこの曲を聴きながら練習した。

 

◆ダック・スープ

 1933年に公開されたアメリカのコメディ映画。邦題は「吾輩はカモである」。
架空の国家を舞台として、ファシズムを痛烈に風刺する内容。
主演は、コメディ俳優のマルクス兄弟(チコ、ハーポ、グルーチョ、ゼッポ)

 

ストーリー上の謎、ネタバレ

◆1969年の冬から70年の夏の間に「僕」が抱えていた個人的トラブル

 70年の春に、仏文科の女の子が自殺したことを指すと思われる。

 

◆三鷹の外れの「僕」のアパートの場所推測

 1970年秋~71年春に掛けての水曜日、「僕」は「誰とでも寝る女の子」と、
三鷹の外れにあるアパートから、雑木林を散歩しながらICU(国際基督教大学)まで歩き、
食堂によって、昼食を食べた。そのアパートの場所を、
「三鷹の外れ」と「雑木林を散歩」のヒントから、野川公園を抜けて、
ICUに到達可能な辺り(黒枠内)と推測。

 

◆十二滝町の場所推測

「先生」の出身地であり、羊博士の牧場&鼠の父親の別荘がある、物語上重要な町。
作中の以下部分を参考に推測。

我々は旭川で列車を乗り継ぎ、北に向かって塩狩峠を越えた

 函館本線から、宗谷本線 に乗り換えた。

「ここはいわば中継地点なんだよ。ここで最初の開拓者たちは東に向きを変えたんだ」

1978年当時、宗谷本線で乗り換え可能な支線のうち、東へ向かうものは、
名寄駅で分岐する名寄本線及び美深駅で分岐する美幸線の二つ。

列車が終点である十二滝町の駅に着いたのは~

候補2線のうち、名寄本線は、遠軽駅で石北本線に合流する=終点が無いため
候補とは成り得ない。つまり、「僕」らが乗り換えたのは美幸線であり、
十二滝町のモデルとなっているのは、美幸線終点の仁宇布付近ではないかと推測する。


①旭川②塩狩峠③美深駅④仁宇布駅跡

◆鼠が街を出るときに、何人かの人間にさよならを言い忘れた。

 作中で、鼠はジェイと設計事務所で働く女の子にさよならを言い忘れたと
「僕」に宛てた手紙に書いている。
ただし、「1973年のピンボール」の24章でジェイには、さよならを言っている気がする。

「街を出ることにするよ」と鼠はジェイに言った。

 

◆12時のお茶の会

 まず、「お茶の会」とは、「僕」が帰りの電車の中で聞いた爆発のこと。
鼠から最後に依頼された柱時計の赤のコード、緑のコードを繋ぐことで、
十二時に起動するよう、時限爆弾がセットされた。
次に出席者は、黒服の秘書、鼠、そして、「羊」だと思われる。
目的は、「羊的思念」の具現化、つまり、「アナーキーな観念の王国」の具現化を
阻止するため。そのために、「羊」自体と「先生」の後継者足らんとする、
黒服の秘書を葬り去る必要があった。

※鼠と「羊」は、鼠の自殺によって、既に死んでいるのだが、作中で
「あと一つだけ作業をすれば、永遠に葬られる」という鼠の言葉があり、
鼠本人が「僕」と話せたように、「羊」はまだ、
完全に死んではいないということかもしれない。

<続編>

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