「QED」シリーズの第12作。
1997年7月の出来事。
この年、桑原崇は30歳、棚旗奈々は28歳。
調べたくなる言葉
◆東京オペラシティ
新宿区新宿三丁目に1996年に開業した複合文化施設(最寄り駅は京王新線初台駅。
1-4階にコンサートホールがあり、外嶋が言う「小澤征爾指揮の『マタイ受難曲』」の
杮落し公演はここで行われた。また、同じ敷地内に新国立劇場があり、
96年10月10日にオペラ「建・TAKERU」(團伊玖磨作曲、星出豊指揮)で
杮落しされた。
「東京オペラシティ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2020年7月9日 1:05(UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆マタイ受難曲
ヨハン・セバスティアン・バッハの作曲による作品。新約聖書「マタイによる福音書」
26,27章に記載されているキリストの受難を題材にした作品。
1727年ドイツ・ライプツィヒにて初演されたが、バッハの死後に忘れられてしまうが、
1829年にメンデルスゾーンによって復活上演されたという歴史を持つ。
◆シャルトリューズ
本シリーズにて、棚旗姉妹がしばしば飲む薬草系リキュール。
フランスのシャルトリューズ修道会に伝えられてきた。ブランデーをベースに
多くのハーブ類を加えて作られる。
「QED 式の密室」の記事も参照ください。
◆遠野物語
日本の民俗学者、柳田国男が1910年に発表した説話集。岩手県遠野地方に伝わる
河童や座敷童、神隠し、オシラサマなどの妖怪、神の類等の伝承を収集した作品。
現地の小説家、佐々木喜善が語った内容を柳田が編纂する形で成立。
日本民俗学の出発点とも言われる。
◆イーハトーブ
1896年、今の岩手県花巻市生まれの童話作家、宮沢賢治の造語で、
彼の心象風景の中にある理想郷を指す。「岩手」をもじった言葉とされている。
桑原が新幹線で降りるはずだった仙台を通り過ぎて、新花巻まで行ってしまった
と聞いた棚旗沙織がそこって、もしかしてイーハトーブ?と聞くシーンが作中に登場する。
◆清水宗治
戦国時代に備中高松城主であった武将。作中で棚旗沙織が彼のことが好きだと
いう描写がある。1537年、現在の岡山県に生まれ、三村氏、毛利氏に仕えた。
1582年、天下統一を進める織田信長が、羽柴秀吉を大将に中国攻めを行った際、
降伏すれば備中・備後の2か国を与えるという条件を出されたが受けず、
有名な水攻めによって落城寸前の状況に追い込まれた。その後、本能寺の変の発生により
講和を急いだ秀吉から、自身の命と引き換えに城兵を助命する条件で講和を持ち掛けられ、
水上の船において切腹した。
◆ブラウンの「四人の盲人」
遠野の河童が、寺で育てられ、普段は川縁で暮らしていた子供たちのことを指す
とも言われているが、そのことが、河童がそういう人々の総称を意味しない
という趣旨の説明を御名方がする場面が作中にあるが、
その際に標題の作品で、四人の盲人がそれぞれ象の一部を触ってそれぞれの
「象」を考えたが、彼らの話を総合しても「象」は構築されない、
という例で解説した。
フレドリック・ブラウンは、1906年アメリカ合衆国オハイオ州シンシナティ生まれの
小説家で、推理小説やSF小説の分野で活躍。SFにおいては、短編作品において著名であるが、
5編のみを残した長編でも「発狂した宇宙」「火星人ゴーホーム」などの傑作を残す。
一方、推理小説の分野では、アメリカ探偵作家クラブの最優秀処女長編賞を受賞した
「シカゴ・ブルース」に始まる、若い探偵の成長物語を描いた、
「エド・ハンター」シリーズが代表作。
ストーリー上の謎、ネタバレ
◆河童に関する言い伝えが示すこと
・相撲を好むこと
相撲の祖である野見宿禰が、土をこねて土器、埴輪をつくる土師氏の祖先で
あるが、土をこねるには当然水が必要のため、水辺の民であり、つまりは
河童である、ということから。
・人や馬を川に引きずり込む、厠から手を出して女性を襲う
女性は女陰の別名ホトは火処=火炉のことであり、タタラ製鉄において、
宝を生み出すもの。また、馬は「飛び込み馬」の絵馬が「子宝に恵まれる」を
意味するように元気の良い女性が家に入ってくるを意味し、そこから火処に繋がる。
河童がそれらをなぜ狙うかというと、それは彼らから奪われたものであり、
それを取り返そうとしているのである。
・好物はキュウリ
昔のキュウリは固くて苦くてまずかった。それが大好物ということは
そんなものしか食べるものが無かった、あるいはお前らはそれでも食べてろ
という意味。また、素戔嗚尊を祀る八坂神社の神紋がキュウリの断面のような
織田木瓜であることから、河童と素戔嗚尊の繋がりを示唆するものでもある
・頭の皿が乾くと死んでしまう
天照大神が河伯=河童=死に体であることを指している。つまり、
藤原道綱母の陸奥守として赴任する親戚へ送った歌に、
「いまぞ知るかはく(河伯)と聞けば君がため 天照る神の名にこそあれ」
とあるように、この時代ではすでに天照大神=河伯=河童であると認識されていた。
ここから、頭の皿が乾くと河童が死ぬとは、かはくは死に体、を意味している。
・カネ気を嫌う
桑原は河童は製鉄民族だという。だとするとカネ気を嫌うわけはないが、
朝廷のお前たちは鉄嫌いだったよな?=いらないよな?(だから奪う)という
無茶苦茶な論理による。
・尻子玉を抜く
河童の仕業ではなく、人が溺れて土左衛門になった時に、普段は閉じている
肛門がぽっかり空いてあたかも蓋がなくなっているようになっていることから。
◆小高製薬がらみの事件について
・事件の背景
小高製薬が力を入れて売り込んでいる第三世代セフェム製品セフロックスが
他社品とくらべて劣っていたため、富岡附属病院の坂元ドクターと結託して
臨床データを捏造していたことが一連の事件のきっかけ
・安岡昭二の場合
岩沼の家の近くで岩沼、亘理が話しているところを目撃し、左手に何かを
メモしようとしたため、絞殺し左手を切り落した上で川に遺体を流した
・安岡良一の場合
弟の死の謎を解く鍵が強羅川にあると考えてそのあたりを探っていたが、
その時には弟の左腕が近くの河原に埋めてあったため、犯人たちに都合が悪かった。
また、沢村クリニックに首を突っ込んで直泉製薬の小藤ともめてしまったため、
岩沼、亘理に呼び出され、サクシニルコリン=筋弛緩剤を注射され殺された。
その後、注射痕を隠すため、また、失血死に見せかけるために腕を切り落とした
・小藤安夫の場合
セフロックスの臨床データ捏造の事実を発見してしまったため、殺された
・秋野美恵子の場合
岩沼と亘理が一連の事件について話しながら歩いてたところに出くわし、
話を聞かれたのではと恐れた二人に絞殺された
・中村の独立話について
岩沼が滑川院長を抱き込んで仕組まれた話。滑川は中村から病院に投資して
もらう代わりに面倒を見る約束だったが、独立した瞬間に手を引く手はずだった。
<次回作>
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