「涼宮ハルヒの驚愕(前)」の謎・ネタバレ

広告




本作は「涼宮ハルヒ」シリーズの第10作目。
キョンとハルヒが高校2年生4月の出来事が描かれている。

 

調べたくなる言葉

◆ゴルジ体

 作中でキョンが、自分は既にハルヒ色に染まってしまっているので、
もし可能であっても別の色に染まろうとはゴルジ体の直径ほども思わないと
ハルヒへの愛を語る場面が登場する。
 ゴルジ体は、真核生物の細胞にある細胞小器官の一つで、発見者であるイタリアの
科学者カミッロ・ゴルジに因む名前が付けられている。その機能は、細胞外へ排出
されるたんぱく質の糖鎖修飾(糖鎖を付加すること)など。扁平な袋状組織の連なり
で構成されており、直径は0.5μm程度。

「ゴルジ体」(⑥がゴルジ体)『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2020年5月15日 8:23(UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆邪神の呼び声

 見舞いに行っていた長門のマンションから飛び出したキョンは、ハルヒに
邪神の呼び声でも聞いたのかと言われた。1890年アメリカ合衆国ロードアイランド州
生まれの小説家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによるSF作品群を
元にした架空の神話体系・クトゥルフ神話を下敷きにした発言と思われる。
(代表作の一つであり、TRPG名にもなっているのは「クトゥルフの呼び声」)
 クトゥルフ神話はラヴクラフトの死後、友人の作家ダーレスらによって
体系化されたが、この世界はそこに留まることなく、現在も後続の作家たちによって
拡大を続けている。登場する神々には、人間と敵対する者が多く、その姿形も
おぞましいものがほとんどである。そういった世界観の作品に対して、
←こういう擬人化をした作品に転換できるのは実に日本らしいと思う。
ちなみに、こちらの這いよれ!ニャル子さんですが、主人公は「這い寄る混沌」という
別名を持つニャルラトホテプという神。設定としては貌が無く、様々な姿で顕現
する神であるため、別にこのような姿でも構わないということかもしれない。
参考までに、ラヴクラフトの「魔女の家の夢」に「黒い男」として登場した際の
姿は以下のようなものである。



「ナイアーラトテップ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2020年7月11日 16:12(UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆ベイツ型擬態

 生物が捕食者から自らの身を守るために、有害な生物に擬態することを指す。
有毒な生物の模様を別の無毒な生物が擬態するという例が典型的。
イギリスの博物学者ヘンリー・ウォルター・ベイツに因んだ名が付けられている。
 キョンはハルヒが新団員に求めているのは、「気持ちが悪いほど真っ赤なソックスを
はいている」「さっそく制服を改造して違反な服飾」というようなベイツ型擬態
ではないと語る。ここでは、見た目だけ突飛=本質的には突飛ではないという意味か。

 

◆人間に火の有効利用法を教えたプロメテウスが悲惨な晩年を送ったという故事

 プロメテウスはギリシャ神話に登場する男神。イーアペトスの子で、
アトラス、エピメテウスなどと兄弟。ゼウスの反対を押し切って人間に天界の火を
与えたこと。人間たちはそれによって豊かになったが、その火を使って戦争を始めたため
プロメテウスはゼウスの怒りを買い、山頂に磔にされ、毎日巨大な鷲に肝臓を
ついばまれる責め苦を受けさせられた
(プロメテウスは不死身のため、肝臓は毎日再生し、毎日痛い)
というエピソードを表している。キョンは自分に勉強を教えるハルヒについて、
プロメテウスのようにはならないで欲しいと語る。

 

◆武家諸法度よりウェストファリア条約

 日本語の用語よ世界史の用語。ハルヒは後者の方が美的感覚に優れていると語る。
ブログ主も(武家諸法度がどうこうではなく)ウェストファリア条約は
ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世、トルコマンチャーイ条約などと並んで
語感が良い用語だと思う。
 ちなみに武家諸法度は1615年に徳川秀忠によって発布された基本法で、
大名を統制するために制定された。ウェストファリア条約は1648年に締結された
三十年戦争の講和条約で、この条約をきっかけにヨーロッパに新たな秩序が構築された。

 

◆万物は流転する

 キョンはSOS団の人数が増減することは思い描けないと語り、
万物は流転する、という言葉に異を唱えたい気分だと話す。
万物は流転するとは、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスが提唱した哲学上の概念。
全てのものは変化し続けるという意味。

 

◆機械化歩兵連隊

 キョンは2年生に上がった際に、谷口と再び同じクラスになれたことについて、
「機械化歩兵連隊の包囲戦に塹壕堀り用のシャベルしか持ち合わせがない
前線指揮官のような気分を追認しなくてすんだ」と述懐している。
 機械化歩兵連隊とは、第二次世界大戦のドイツによってはじめて編成された兵科で、
兵員輸送車などに搭乗することによって、戦車部隊に追随できる機動力を持つ。
 戦車の活用拡大によって、歩兵の徒歩による追随に限界がでてきたところから発生。

 

◆殿中で刃傷沙汰

 古泉がハルヒから部室待機を命じられたと聞いたキョンは、その理由が分からず
殿中で刃傷沙汰にでも及んだのかとコメントする。これは、江戸・元禄時代に
江戸城・松之大廊下にて、播磨赤穂藩主・浅野内匠頭が、吉良上野介を切りつけ、
切腹させられた赤穂事件を指すと思われる。この事件はその後、旧赤穂藩士四十七名
による吉良邸への討ち入り事件へと繋がり、歌舞伎や講談など捜索の材料となっている。

 

◆メガネカイマン

 キョンのSOS団に関する信条は正当だと褒める?古泉に対して、キョンは
メガネカイマンのような目を向けたと作中にある。
 メガネカイマンは南米に生息するアリゲーター科カイマン属に分類されるワニ。
全長は2.5m程度、目の間に突起があるため、この名前がある。

 

◆北家藤原氏

 未来人の自称・藤原を指してキョンは「北家藤原氏の末裔のような歪んだ唇」
と表現した。北家藤原氏は大化の改新の中心人物・中臣鎌足を祖とし、
奈良、平安時代以降、摂政・関白を独占した藤原四家の内の一つであり、
最も興隆した家系。この家系に属する人物に冬嗣、良房、基経、道長、頼経らがおり、
勢力拡大の過程で、伴氏、菅原氏、紀氏ら多くのライバル氏族を手段を選ばず
排除してきた経緯があることからキョンはこのように表現したのではないだろうか。

 

◆天王山、関ヶ原、赤壁の戦い

 全てその後の歴史に大きな影響を与えた戦いであり、キョンが言う通り
「勝負の分かれ目」。天王山の戦いは別名を山崎の戦いといい、
1582年本能寺の変の後、羽柴秀吉と明智光秀によって摂津と山城の境に位置する
大山崎で行われた戦い。この戦いに勝利した秀吉は実質的な信長の後継者として
天下人への道を歩みだした。
 関ヶ原の戦いは、1600年、石田三成らが率いる西軍と、徳川家康が率いる東軍によって
美濃の関ヶ原にて行われた戦い。この戦いに勝利した家康は、秀吉亡き後の日本において、
天下人の地位を確かなものにする。
 赤壁の戦いは、中国後漢末の208年に曹操と劉備・孫権連合軍によって
長江の赤壁で行われた戦い。この戦いにおいて劉備・孫権連合軍が勝利したことで、
曹操による中国統一は遅らせられることになり、曹操による魏と劉備による蜀、
そして孫権による呉の三国の鼎立へと時代は流れていく。

 

 

◆身体が二つあれば真田家みたいに分散配置する

 ハルヒにつくか、佐々木につくかを思考実験するキョンは標題のように考えた。
天下分け目の関ヶ原の合戦において、信濃に勢力を持つ真田家は父・昌幸と次男・信繁は
西軍に、長男・信幸が東軍について戦った。東軍勝利後、昌幸の所領は
信幸に受け継がれることになり、結果的にはどちらが勝っても真田家は存続できた
といわれるエピソードを念頭に置いた思考と考えられる。

 

◆越後のちりめんじゃこ屋を名乗りつつ諸国を漫遊するヒマを持つことができたかもしれない

 キョンは佐々木を中心とする偽SOS団にももう少し時間があれば標題のような
生き方ができたかもしれないと語る。越後のちりめん問屋(ちりめんは絹織物の一種)の
隠居を名乗って諸国を漫遊し、悪人、悪政を糺す旅をしていたと創作される
水戸光圀(徳川光圀)一行のパロディと思われる。
SOS団と偽SOS団、ちりめん問屋とちりめんじゃこ屋。

 

◆TOWと閃光手榴弾くらいの違い

 朝倉と喜緑の違いをキョンはこのように表現した。TOWはアメリカ合衆国で開発された
対戦車ミサイルの名前で、Tube‐launched, Optically‐tracked, Wire‐guided、つまり、
円筒から発射され、光学的に追跡され、ワイヤーで誘導される(ミサイル)という意味。
 一方、閃光手榴弾は爆発時の音と光によって対象を無力化するための非殺傷用兵器。
スタングレネードとも。上記の説明からも分かるように、朝倉がTOWで喜緑は閃光手榴弾。

Hires 090509-A-4842R-001a.jpg
「TOW(ミサイル)」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2020年5月7日 6:24(UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆川中島の奇襲に失敗したキツツキ戦法の武田軍別動隊斥候

 元カノの九曜と出くわしてしまった谷口は標題のように逃げてったとキョンは語る。
川中島の戦いは1553年から1564年にかけて甲斐の戦国大名・武田信玄と、
越後の上杉謙信の間で争われた一連の戦いの名称。そのうち、1561年の第四次合戦は
唯一の大規模な戦いであったが、この戦いにおいて、武田の軍師、山本勘助が立案した
作戦がキツツキ戦法。上杉の本陣を攻める際に、別動隊で背後から急襲し、
驚いた上杉軍が移動した先で本体が待ち伏せて挟撃しようという作戦。しかし、
前日の炊煙の多さから異変を察知した上杉が本陣を移動していたため、
作戦は失敗に終わった。

 

◆アカシックレコード

 元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念。
オカルティズムやスピリチュアルの分野で使用される用語。

 

◆エヴェレット的に

 作中で、九曜との会話において佐々木が次のように発言する。
「仮に並行世界があったとして、それは無限に存在するものじゃないのかい。
こう、エヴェレット的に」
 エヴェレットは20世紀アメリカ合衆国の物理学者、ヒュー・エヴェレット三世のこと。
彼は1957年に「エヴェレットの多世界解釈」という概念を提唱した。この概念は、
量子力学の観測問題における一つの解釈であり、分岐した世界はそれぞれに干渉すること
なく並列して存在しており、観測者の主観はは自らが存在する分岐した世界のみが
観測可能な世界であって、そのほかの世界は観測不可能とするもの。
(正直上手くできている気はしません)
この概念は多くのSF小説で用いられている。(マイケル・クライトンの「タイムライン」、
日本ではADVゲームでありアニメ化もされた「STEINS;GATE」など)

 

◆ブラインドウォッチメーカー

 とらえどころのない九曜に相対して、さらに、佐々木版SOS団との対峙にあたって
何かよりどころのようなものを求めるキョンを鼓舞するためにの?佐々木の
言葉に登場する単語。日本語では「盲目の時計職人」と訳される、
イギリスの進化生物学者リチャード・ドーキンスの1986年の著作名。
ドーキンスは「利己的な遺伝子」(「QED 神器封殺」の記事参照)のように、
進化論を一般に分かりやすく説明した著作を多く残しているが、本作もその一つ。

時計職人とは、18世紀イギリスの神学者ウィリアム・ペイリーの著作からの引用であり、
ペイリーは、ある時計の存在が、その時計を作り出した職人の存在を肯定するのと
同様に、生物もまた、その複雑性から生命の作り手=神の存在を肯定する述べ、
ドーキンスは、人間によるデザイン(=時計職人が作る時計)と自然選択作用がもたらす
設計能力(=自然淘汰)とを対比させ、進化の作用は「盲目の時計職人」
のようなものだと述べている。ここでの佐々木の言葉の意図は、盲目の時計職人の
仕事によって、人間が九曜たちのような宇宙的存在に対抗できる存在に進化する
可能性もあるということだろうか。

 

◆『赤と黒』のジュリアン的な人間

 向上心に燃えたぎる人物としてキョンが述べる場面が登場する。
「赤と黒」は、1830年にフランスの小説家スタンダールが発表した小説。
主人公のジュリアン・ソレルは貧しい製材屋の末息子として生まれるが、
才気と美しさを兼ね備えていた彼は立身出世の手段として、はじめ軍人を、
後には聖職者を志す。

 

◆プロメテウスかカサンドラ 

 キョンは、佐々木のアイデンティティはとてつもなく強固なので、ゼウスやクロノス
といったの神託を受けても変節しないが、この二名の言葉なら耳を傾けるかもしれない
と語る。両名はどちらもギリシャ神話の登場人物で、プロメテウスは前述の通り。
カサンドラはトロイアの王女で、アポロンに愛され、彼から予言の能力を付与されたが
その能力によって彼の愛が冷めることが見えてしまったので彼の愛を拒絶した。が、
そのことによって誰も彼女の予言を信じないという呪いを掛けられてしまう。
 そのため、彼女は自国の滅亡が予知でき、それを回りに伝えたにも関わらず
誰にも信じてもらえず滅亡を止めることはできなかった。

 

◆ヒトラーユーゲント全国大会に出席した若手ナチス党員

  ヒトラーユーゲントは1926年に設立されたナチス党内の青年組織に端を発した
学校外における青少年教化組織。茶色の開襟シャツが制服とされ、
毎年のナチス党大会では彼らによる行進が行われた。


「ヒトラーユーゲント」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2020年8月24日 13:01(UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆曹操みたいな人材収集マニア

 陸上部から羨望の目で見られるヤスミを獲得することについて、キョンはハルヒに
曹操のようにならなくてもいいんじゃねえかと感想を漏らす。曹操は
中国・後漢末の政治家、武将で、三国時代の魏の基礎を築いた。
三国志演義などの三国時代を舞台にした創作では蜀の劉備を主人公とされることが
多く、必然的に悪役として描かれることが多い。だがしかし、魅力的な悪役として
描かれることも多い。表題のように、優秀な人材を集めるマニアであり、
家柄に囚われず優秀な人材を登用することに力を注いだとされる。

 

◆アルビジョワ十字軍

 「通常の信仰を持つ多数派の信者からは当然ながら弾圧の対象」となった例として
古泉が挙げた。アルビジョワ十字軍は、1209年から29年に掛けて実施された十字軍で
南フランスで栄えていたアルビ派を征伐することを目的としていた。
 アルビ派とは、カタリ派(清浄を意味するギリシャ語のカタロスより)ともいわれ、
堕落したカトリック教会の聖職者に反対する民衆運動として始まり、
神により創造された精神が、悪により創造された肉体・物質に囚われているという思想
を中心としていた(前段で古泉が説明したグノーシスに類似した考え)ことから、
1028年のシャルー教会会議、1056年のトゥールーズ教会会議にて正式に異端とされ、
その後も1163年のトゥール教会会議、1179年第3ラテラノ公会議などで禁止されたが、
勢いは衰えず、領土欲を持つ北フランス諸侯らの思惑なども絡んで十字軍派遣に至った。

 

◆J・D・カー

 彼が「この時代に生きていたら、現代技術を取り込んだ奇抜で新機軸な
密室トリック小説を
大量に生み出していて、僕を読書の虜にしてくれたもの
なのにね」
と佐々木は語る。
カー(ジョン・ディクソン・カー)は、1906年アメリカ生まれの推理小説家で、
密室殺人を扱った推理小説で特に多くの傑作を残す。代表作に、「魔女の隠れ家」や
「黒死荘の殺人」など。

 

◆ガニメデとトリトンのどっちが大きいのかも知らない

 宇宙人、未来人などと対峙するにあたってキョンは上記のように例を挙げ、
ノーベル賞クラスの物理学者を総動員すべき問題じゃないのかと愚痴る。
 ガニメデは木星の第3衛星であり、その直径は 5,268 kmと太陽系の衛星の中で最大。
また、トリトンは海王星の第1衛星であり、その直径は2,710kmと太陽系の衛星では
7番目に大きい。

 

ストーリー上の謎、ネタバレ

◆この巻で分かったことの整理

1.αの世界
 ・βの世界ではハルヒは毎日長門を看病しており、料理も作っていたが、
  αのハルヒは「料理をしないといけないような気分になった」=αとβの繋がりを示唆
 ・前作のαでキョンに電話を掛けてきた「わたぁし」は北高の新入生にして
  ハルヒの入団試験をパスしたSOS団新入団員、渡橋泰水と判明(そのさらに正体は?)
 ・αの世界では閉鎖空間と神人は鳴りを潜めた(古泉はハルヒが長門に掛かり切りだから
  ではと見解を述べていたが、それだけだろうか)

2.βの世界
 ・長門の体調不良は過負荷のせい。天蓋領域とのコミュニケーションのため
 ・熱が出たのは土曜日の夜
 ・長門が別業務に専念している間、ハルヒ、キョンらを守るために、
  喜緑と朝倉が登場した
 ・朝倉曰く、「彼女(長門)は既に単なる端末じゃなくなっている」
  (どういう意味?)
 ・(橘京子を信じるならば)古泉の「機関」は彼が一から作り上げて運営している
  組織であり、リーダーは古泉
 ・長門を(天蓋領域とのコミュニケーションから)解放するよう主張するキョンに対し
  藤原は交換条件としてハルヒの能力を全て佐々木に移譲することを提案
 ・前年の12月に、谷口に彼女ができたがそれは九曜だった
  その別れは九曜の「間違えた」という言葉だったが、九曜はキョンと谷口を
  間違えたのだ。

 

<次回作>

広告




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です