「国境の南、太陽の西」の謎・ネタバレ

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調べたくなる言葉

◆BMW320、ジープ・チェロキー、トヨタ・コロナ

 BMW3シリーズは、BMWの主力車種である小型セダンで、ライバルメーカー、
メルセデス・ベンツのCクラスに相当。
始が2軒の店で稼ぐようになって買った車。おそらくは、82年発売の第2世代。
320は直列6気筒1,990ccのエンジン搭載。


「BMW・3シリーズ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年10月6日 21:54 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

 ジープ・チェロキーは、妻の有紀子が買い物と、子供たちの移動のために買った車。
おそらくは1983年発売のジープ・チェロキーXJを指すと思われる。
当時存在した自動車メーカー、アメリカン・モーターズが発売したクロスオーバーSUV。
(アメリカン・モーターズは1987年にクライスラーに吸収された)

Jeep Cherokee 2-door.jpg
「ジープ・チェロキー(XJ)」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2017年10月13日 03:57 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

 トヨタ・コロナは、1957年から2001年まで、トヨタ自動車から販売されていた
小型のセダンを中心とする車種。(2001年以降は後継車種のプレミオに切り替え)
車名の由来は、英語で太陽冠であり、同じトヨタのセダンであるクラウン(冠)、
カローラ(ラテン語で花で作った冠)と、冠繋がりとなっている。
作中では、義父に出会わなければ、始はエアコンのききの悪い、中古のこの車に
乗っていたことだろうと想像している。
当時のBMW3シリーズ、チェロキーとの価格差は不明だが、
かなり安価だったのではないか。

Toyota Corona 1985.JPG
「トヨタ・コロナ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年8月16日 06:35 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

 

◆青山一丁目の商社

 始に、イズミの消息を教えた高校の同級生が、務めていた会社。
おそらくは伊藤忠商事のことと思われる。東京本社所在地の正確な住所は、
北青山ニ丁目だが、地下鉄の青山一丁目駅から徒歩圏内。

 

◆ウォルト・ディズニーの「砂漠は生きている」

 1953年にウォルト・ディズニーによって制作された映画。
アメリカ南西部の砂漠が舞台となっている。
アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。
作中で、始と商社勤めの同級生が、小学校の頃に、この映画を見たと話す場面が登場。

 

◆ロビンズ・ネスト

 ピアニストのサー・チャールズ・トンプソンと、サックス奏者のイリノイ・ジャケー
による1947年のナンバー。直訳するとロビンさんの巣。
始が好きな曲で、彼が青山で経営するジャズクラブの名前。

 

◆チャーリー・パーカー

 1920年アメリカ・カンザス州生まれのジャズ・ミュージシャン。
モダン・ジャズの父と呼ばれるほど、並外れた才能の持ち主だったが、
麻薬とアルコールに溺れ、わずか34歳で亡くなるという破滅的な人生を歩んだ。
作中では、最近のジャズ・ミュージシャンは、チャーリー・パーカー的ではなく、
礼儀正しい、こぎれいな連中が多いと始によって語られている。

 

◆アラビアのロレンス

 1962年のイギリス映画。実在のイギリス陸軍中佐、トーマス・エドワード・ロレンス
を主人公に、彼が支援した、オスマン帝国に対するアラブ人の反乱を描いた作品。
アカデミー賞作品賞、監督賞など7部門を受賞した。
作中では、有紀子の好きな映画として紹介。

 

◆富士屋ホテル

 箱根・宮ノ下にある1878年創業の老舗ホテル。
箱根を訪れた各国の王族や、アインシュタイン、ジョン・レノンといった
著名人が宿泊したホテルとして知られる。

本館(登録有形文化財)
「富士屋ホテル」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年7月15日 14:20 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆ヒステリア・シベリアナ

 作中では、シベリアの農夫が罹る病気とされ、
あるとき、突然、太陽の西に向けて、憑かれたように何日も何日も
飲まず食わずで歩き続けて、そのまま地面に倒れて死んでしまう病とされている。
が、おそらくは架空の病。

 

◆カサブランカとアズ・タイム・ゴーズ・バイ

 映画カサブランカについては「ダンス・ダンス・ダンス」の記事参照
アズ・タイム・ゴーズ・バイは、主人公リックとヒロイン・イルザの思い出の曲。
リックとイルザはドイツ軍の迫るパリから一緒に逃げる約束をしていたが、
出発の日、イルザは待ち合わせの場所へ来なかった。
そのため、リックは逃げた先のカサブランカで経営していたカフェでは、
所属のピアニストに対して、この曲を弾くことを禁止していた。
作中で、始がロビンズ・ネストのピアニストに対して、スタークロスト・ラヴァーズを
もう聴きたくない、弾かないでほしいと言ったのと同じように。
だから、ロビンズ・ネストのピアニストは、「カサブランカみてえだよ、旦那」
と言ったのだ。

 

◆作中に登場する音楽たち(基本的には登場順。主なもののみ)

・島本さんの家で聴いていた音楽

■ロッシーニ序曲集
ジョアキーノ・アントーニオ・ロッシーニは、
1792年イタリア・ボローニャ生まれの作曲家。
「セビリアの理髪師」や「ウィリアム・テル」などオペラ作品が最もよく知られる。
序曲集は、ロッシーニのオペラの序曲を集めたレコード、アルバム。
(以下リンクはセビリアの理髪師の序曲)

 

■ベートーヴェン「田園交響曲」
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、
1770年現在のドイツ・ボン生まれの作曲家。楽聖と称される。
「田園」は9つあるベートーヴェンの交響曲のうちの5番目のもの。

■ペール・ギュント
ペール・ギュントは、ノルウェーの劇作家ヘンリク・イプセンが作った戯曲のために、
同じくノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグが作曲した劇付随音楽。

■リストのピアノ・コンチェルト
フランツ・リストは1811年ハンガリー生まれのピアニスト、作曲家。
ピアニストとしては超絶技巧の持ち主であり、ピアノの魔術師と呼ばれた。
作曲家としてもピアノ曲を多く残した。
作中で、始と島本さんが聴いてたレコードは表に1番が、裏に2番が入っていたが、
以下リンク先は1番。

■ビング・クロスビーのクリスマス音楽
ビング・クロスビーは1903年アメリカ・ワシントン州出身の歌手、俳優など。
多くのクリスマスソングを残したため、「クリスマスソングの王様」と称される。
始と島本さんが聴いていた曲は明示されていないが、以下リンクは
最も有名(≒売れた)な曲、「ホワイト・クリスマス」。(14週連続で全米1位)

■ナット・キング・コールの「プリテンド」、「国境の南」
1913年アメリカ・アラバマ州生まれのジャズ・ピアニスト、歌手。
「プリテンド」は、1952年のナンバー。
「国境の南」はジャズのスタンダード・ナンバーで誕生したのは1933年。
ただし、ナット・キング・コールが「国境の南」を歌うレコードは実在しない。

・車の運転中に聴いていた音楽

■シューベルトの「冬の旅」
フランツ・ペーター・シューベルトは、1797年現在のオーストリア・ウィーン
生まれの作曲家。歌曲の王と称される。
「冬の旅」は、1827年作曲の連作歌曲集。
以下参考リンクは、5曲目の菩提樹。

・島本さんが「ロビンズ・ネスト」へ来た日に流れた音楽

■コルコヴァド(初めて来た日)
1927年ブラジル・リオデジャネイロ生まれの作曲家、
アントニオ・カルロス・ジョビンによる1963年のナンバーで、ボサノバの名曲。
タイトルのコルコヴァドはリオデジャネイロにある標高710mの丘の名前で、
巨大なキリスト像が立っていることで有名。

■デューク・エリントン「スタークロスト・ラヴァーズ」(初めて来た日)
エドワード・ケネディ・デューク・エリントンは、
1899年アメリカ・ワシントンD.C.生まれのジャズ・ミュージシャン。
20世紀ジャズ界の巨人。
「スタークロスト・ラヴァーズ」は、1957年リリースのアルバム、
「サッチ・スウィート・サンダー」の収録曲。
作中では、始の好きな曲で、店にいるときにはピアニストが気を利かせて弾く曲。

■エンブレサブル・ユー(2回目に来た日)
1930年のジョージ・ガーシュウィンによる楽曲。
ミュージカル、「ガール・クレージー」の挿入歌。
タイトルの意味は、「embraceable」が抱きしめたいと思わせるという意味なので、
抱きしめたいと思わせるあなた、という感じか。

・娘の幼稚園の迎え時に知り合ったメルセデス260Eの女が聴いていた曲

■トーキング・ヘッズ「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」
トーキング・ヘッズについては、「ダンス・ダンス・ダンス」の記事参照。
「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」は、1983年の5作目のアルバム、
「スピーキング・イン・タンズ」の収録曲。

 

ストーリー上の謎、ネタバレ

◆タイトルの意味

 「国境の南」は、ナット・キング・コールの楽曲で、
アメリカから見た国境の南=メキシコのことが歌われている。
ただし、小学生だった始と島本さんに取っては、何かは分からないが、
素敵なものがあるであろう場所であった。

「太陽の西」は、ヒステリア・シベリアナに罹った農夫が、
ひたすら歩き続ける方向。太陽の西に何があるかについて、島本さんは、
次のように語っている。

そこには何もないのかもしれない。あるいは何かがあるかもしれない。でもとにかく、
それは国境の南とは少し違ったところなのよ

 つまり、どちらも、何かがあるかもしれないが、何があるかは分からない場所を
指していることになる。

そして、その何があるかは分からない場所こそが、島本さんがいる場所ではないか、
と個人的には考える。(どちらかというと、太陽の西ではなく、国境の南)
理由は、安易だが、「たぶん」という言い方が多い島本さんが、
「たぶんの多い国」=「国境の南」の住人というのは、ある意味自然な考えではないだろうか。

それでは、「国境の南」の住人とは何を意味しているのだろうか。
一説では、島本さんは幽霊ではないかと言われている。
理由は、ロビンズ・ネストに島本さんが現れるのは雨の日だけ、
箱根の別荘から姿を消してしまったこと、口止め料の10万円が消えてしまったこと
などが挙げられる。
しかし、私としては、幽霊説と似ているけれど、島本さんは「国境の南」という
「こちら」の世界からは見えない、別世界の住人なのではという説を唱えたい。
理由は、別世界から来るから、滅多にロビンズ・ネストに来られないし、
当然、どちらかの世界にしか存在できないから、「中間というものが存在しない」し、
そして、なにより、ナット・キング・コールの「国境の南」という、
この世界に存在しないレコードを持っているからだ。

 

◆ラストシーンで始の背中にそっと手を置いたのは誰か?

 この場面は、個人的には、リアルで誰がというより、象徴的な意味で誰が
という観点で考えたい。つまり、このラストシーンがその後の始を象徴するような。

候補者は3人いると考えている。有紀子、島本さん、イズミだ。
有紀子であった場合、始の新しい人生の始まりを象徴しているし、
島本さんであった場合、人間はそう簡単には変われないことを象徴しているし、
そして、イズミであった場合は、これはもうホラー映画でよくある終わり方である。

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