「愚者のエンドロール」の謎・ネタバレ

広告




 

 

調べたくなる言葉

◆天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず

 1872年に初版が刊行された、福沢諭吉の著書、「学問のすゝめ」の一文。
この後は、以下のように続く。

されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、
貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥どろとの
相違あるに似たるはなんぞや。その次第はなはだ明らかなり。『実語教』に、
「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」とあり。
されば賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり

 つまり、人の上に人を~と言いながら、世間を見渡すと、賢い人も愚かな人も、
貧しい人も、金持ちも、身分の高い人も、低い人もいるのは何故か。
その理由は明らかである。賢愚の差は学ぶと学ばざるとによるのである、
ということである。

 

◆古丘町のモデルについて

 作中で、2年F組の映画撮影が行われた旧鉱山の街、古丘。
モデルとなっているのは、おそらく、旧岐阜県吉城郡神岡町(現・飛騨市)
だと思われる。旧神岡町には、亜鉛、鉛、銀などを算出した、
神岡鉱山があったため。

 

◆十戒九命題二十則

 作中で、2年F組の脚本家・本郷はこれらのミステリの鉄則を守っていたはず、と
入須は語る。
十戒は、正式には、「ノックスの十戒」。
ノックスは、1888年イギリス生まれの聖職者、推理作家。フェアプレーの原則を主張。
代表作に「陸橋殺人事件」「密室の行者」など。
十戒の内容は以下参照。

1.犯人は物語の当初に登場していなければならない
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない
3.犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
5.中国人を登場させてはならない[2] 6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
8.探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
9.サイドキック[3]は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
10.双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない

「ノックスの十戒」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年10月5日 1:05 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

 九命題は、正式には、「チャンドラーの九命題」という。
チャンドラーは、1888年アメリカ・シカゴ生まれの小説家、レイモンド・チャンドラー。
私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とした「大いなる眠り」「長いお別れ」など、
ハードボイルド探偵小説が代表作。九命題の内容は以下参照。

1.事件の状況や結末には、読者を納得させられる理由を付けなければならない。
2.殺人および捜査方法に技術的なミスは許されない。
3.登場人物や作品の枠組み、雰囲気は現実的にする事。
4.筋書きには精密さと面白さが必要である。
5.物語の構造は読者に分かりやすい単純な物が望ましい。
6.事件は必ず現実的に解決されなければならない。
7.テーマは謎解きか暴力的冒険談のどちらか一つにする事。
8.犯人は物語終了時までに罰を受けなければならない。
9.作者は読者に対して情報を隠してはならない。

「チャンドラーの九命題」『ピクシブ百科事典』
 URL : https://dic.pixiv.net/

 二十則は、正式には「ヴァン・ダインの二十則」という。
ヴァン・ダインは、1888年アメリカ・ヴァージニア州生まれの小説家で、
名探偵ファイロ・ヴァンスを主人公とした「グリーン家殺人事件」
「僧正殺人事件」などの推理小説を残した。二十則の内容は以下参照。

1.事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
3.不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。
ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、
恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
4.探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。
これは恥知らずのペテンである。
5.論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。
偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
6.探偵小説には、必ず探偵役が登場して、
その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
7.長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
8.占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
9.探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って
解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。
それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。
10.犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。
最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
11.端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。
その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
12.いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
13.冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では
秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。
彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
14.殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。
空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
15.事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、
作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
16.余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである。
17.プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。
真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
18.事件の結末を事故死や自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。
19.犯罪の動機は個人的なものが良い。国際的な陰謀や政治的な動機はスパイ小説に属する。
20.自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。
これらは既に使い古された陳腐なものである。
・犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
・インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
・指紋の偽造トリック
・替え玉によるアリバイ工作
・番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
・双子の替え玉トリック
・皮下注射や即死する毒薬の使用
・警官が踏み込んだ後での密室殺人
・言葉の連想テストで犯人を指摘すること
・土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法

「ヴァン・ダインの二十則」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2017年9月7日 1:50 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆テレジア

 1717年、オーストリア・ウィーン生まれで、ハプスブルク帝国を実質的に
統治した「女帝」。父カール6世は、女性であるマリア・テレジアがハプスブルクの
家督を継げるよう、生前に「プラグマティック・ザンクティオン(国事詔書)」を出し、
周辺国に認めさせていた。しかし、カール6世の死後、周辺国は約束を反古にして、
ハプルブルク領へ攻め込んだ(オーストリア継承戦勝)。
彼女この危機を一部領地の割譲と引き換えに乗り切り、ハプスブルク相続を
列強に認めさせた。その後、彼女は領地を奪ったプロイセンに対抗するために、
長年の宿敵であったフランスと手を結び、プロイセンとの戦争を開始(七年戦争)。
結果的には、奪われた領地は奪還できなかった(フベルトゥスブルク条約)ものの、
この戦争を通じて、オーストリアは徴兵制や小学校の新設など、
近代国家への脱皮を遂げていく。

 

◆クリスティーからクイーン、それとカー

 作中で、伊原が読んだミステリーとして紹介。
クリスティー(アガサ・クリスティ)は1890年イギリス生まれの推理小説家。
クイーン(エラリー・クイーン)は、共に1905年生まれのアメリカ人、
フレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーによる推理小説家の共同筆名。
カー(ジョン・ディクソン・カー)は、1906年アメリカ生まれの推理小説家。
上記三組は、全て「黄金時代」を代表する作家。
(「黄金時代」については、後述」

 

◆黄色い背表紙の文庫

 東京創元社が発行している文庫レーベル、創元推理文庫の、
日本人作家もののことと思われる。日本人作家の作品は、背表紙が黄色というか、
クリーム色というか肌色というかそういう色で統一されている。
収録されている主な作家は、鮎川哲也、泡坂妻夫、北村薫、江戸川乱歩など。
作中では、奉太郎が読んだことある推理小説として、「黄色い背表紙の文庫を幾つか」
と紹介されている。

 

◆シャーロッキアンとホームジストの違い

 作中で、伊原から「ふくちゃんはシャーロッキアンに憧れてるのよね!」と
言われた福部が「憧れるのはシャーロッキアンじゃなくってホームジストなんだけど……」
と訂正する場面が登場する。それでは両者の違いとは?
「シャーロッキアン」は、シャーロック・ホームズの熱狂的ファンを指す。
「ホームジスト」は、検索であまり引っかからないので、おそらくは福部の造語と
思われる。意味は、福部の「憧れる」という発言から、ホームズ的な人に憧れる
と言うことではないだろうか、と勝手に推測する。

 

◆「中村青」までしか読めないが設計士の名前~

 作中で、2年F組が映画の撮影に使った劇場の見取り図に、設計士の名前として、
「中村青」までが読み取れたとされている。館もののミステリーで、
中村青なんとかという建築家と言えば、綾辻行人の「館」シリーズの
キーパーソン、中村青司のことだと思われる。
「館」シリーズでは、中村青司が関わった奇怪な建物を舞台に殺人事件が発生する。
(参考 :「館」シリーズの第一巻「十角館の殺人」の記事

 

◆The march of black queen

 イギリスのロックバンド、Queenの2枚目のアルバム「Queen Ⅱ」(1974年)の
収録曲。作中では、沢木口の話を聞く日の13時から、軽音部がこの曲の
音合わせを始めた。

 

◆最大多数の最大幸福

 1784年イギリス生まれの経済学者、哲学者、法学者であるジェレミ・ベンサムが
主張した功利主義を表した言葉。
功利主義とは、行為や制度の社会的望ましさは、その結果として生じる効用に
よって決まるという考え方。

 

◆黄金時代

 第一次世界大戦後から、30年代にかけてをミステリー小説の黄金時代という。
1913年にベントリーが発表した長編小説「トレント最後の事件」が成功を収めると、
それまで短編中心であった推理小説において、長編の名作が続々と発表されたことから、
この時代が後に黄金時代とされた。
黄金時代に活躍した主な作家はアガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、
ドロシー・L・セイヤーズ、ヴァン・ダイン、ジョン・ディクソン・カーなど、
現在でも名前を知られる作家多数。
(あとがきで作者は、「本作はバークリーの『毒入りチョコレート事件』への
愛情と敬意をもって書かれました」としているが、そのバークリーもこの時代の作家)

 

◆オリエント急行殺人事件

 イギリスの推理作家アガサ・クリスティが1934年に発表した長編推理小説。
トルコのイスタンブール発、フランスのカレー行のオリエント急行内で発生した殺人事件を、
たまたま乗車していた名探偵エルキュール・ポアロが解決するというあらすじ。
クリスティの作品の中でも、トップクラスに著名な作品だが、作中で、沢木口に
「マニアック」と言われてしまう。

 

◆十三日の金曜日、エルム街の悪夢

 作中で、オリエント急行殺人事件をマニアックとして退けた沢木口が、
ミステリーの代表として挙げた作品。
「十三日の金曜日」は、1980年にアメリカで公開された一作目に始まる、
ホラー映画シリーズ。2作目から登場し、後にはホッケーマスク姿がトレードマークとなる
殺人鬼ジェイソンで有名。
「エルム街の悪夢」は、1984年にアメリカで公開されたホラー映画。
鉄のかぎ爪で人を切り裂く殺人鬼フレディが登場する。

 

◆兵どもが夢の跡、難波のことも夢のまた夢

 「兵どもが夢の跡」は、松尾芭蕉の俳句、「夏草や 兵どもが 夢の跡」の一節。
意味は、「(この夏草が生い茂っている場所は)かつて武士たちが、栄華を夢見た
戦場の跡である。全ては今となっては消え去っているのは悲しいことだ」と言う意味。
「難波のことも夢のまた夢」は、豊臣秀吉の辞世の句
「露と落ち 露と消えにし わが身かな 難波のことも 夢のまた夢」の一部。
意味は、「露のように生まれて露のように消えていくわが身であることよ 大阪城で
暮らしたことも夢のようだ」と言う感じか。
作中では、中城、羽場、沢木口三人の案が却下され、2年F組の映画が完成しない
可能性が高くなったときに、福部が口にした言葉。

 

◆オッカムの剃刀

 ある事柄を説明するために、必要以上に多くの仮定を用いるべきでないであるとか、
ある現象を説明する理論、法則が複数ある場合、より単純なものの方が望ましいという
考え方。作中では、奉太郎が入須に密室のトリックを説明する際、
上手袖の密室(=殺人現場)への侵入経路検討時に余計な可能性を排除するために、
オッカムの剃刀の考え方を用いた。

 

◆カバリスト

 作中で、姉・供恵の本から『神秘のタロット』というタイトルを見つけたときに、
奉太郎が思ったこと。「姉貴がカバリストとはいまのいままで知らなかった」
カバラとは、ユダヤ教の伝統に基づいた創造論、終末論、メシア論などを伴う
神秘主義思想のこと。カバリストはカバラを実践する人のこと。
カバラとタロットカードの繋がりは、19世紀以降、「黄金の夜明け団」などの
秘密結社でカバラの重要概念であるセフィロトの樹(生命の木)の22の小径(パス)と、
タロットカードの22種類の大アルカナが結びつけられたことによる。

図式化したセフィロトの樹

「生命の樹」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年5月28日 8:05 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org
(小径=パスは上図の線のこと)

 

ストーリー上の謎、ネタバレ

◆〇アバンタイトルでのチャットのハンドルネームはそれぞれ誰?

 「名前を入れてください」は、入須。「まゆこ」は、本郷。
「あ・た・し♪」は、奉太郎の姉、供恵と思われる。理由は、①エンドロールでの
チャットで、入須が「先輩」と呼んでいること、
②「あ・た・し♪」の「あのバカはそれに気づかなかったみたいだけど」とのコメント。
本作で、脚本のコを傷つけないために踊らされたのは奉太郎であるが、
彼のことを「あのバカ」と呼ぶのは姉である供恵の可能性が高い。
③最後に、ほうたるとLのチャットで、ほうたるは初めてこのチャットを使った
と言っているのに、最終アクセスがついさっきになっていたこと。
姉が奉太郎のIDを使っていたと考えられる。
「L」はそのまま千反田える。「ほうたる」は奉太郎。(ほうたろうのタイプミス)

 

◆タイトルの意味

 「愚者」は作中での古典部メンバーをタロットの大アルカナに当てはめた下りから、
千反田のことを指していると思われる。
とすると、千反田が望んだエンドロール=本郷の本来の脚本と言う意味だろうか。
(千反田と本郷は「ひとの亡くなるお話は、嫌い」という点で似ているという発言から)
本作のストーリーが、江波の脚本の続きを推理するという流れだったためと考えられる。

 また、英文タイトルの「Why didn’t she ask EBA?」は、どういうことか。
「she」はおそらく入須のこと。EBAはもちろん、本郷の友人の江波のこと。
つまり、「なぜ入須は江波に(脚本の続きを本郷に聞くように)頼まなかったのか?」
ということ。作中にあるように、入須は脚本の続きを知らなかったのではない。
知っていたが、誰も死なない脚本では、盛り上がらないと考え、
クラスメート、さらには古典部、中でも奉太郎を相手に実質的なシナリオコンテストを
行ったのだ。入須がそうした理由を、奉太郎は、本郷を守るためと考えたが、
実際には、「わ・た・し♪」が指摘したように、脚本の出来が悪かったため、
おそらくは「女帝」である自分のクラスの出し物には相応しくない≒自分を守るためだった。

<続編>

 

広告




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です