「QED」シリーズの第6作。
1995年1月から7月の出来事。
この年、桑原崇は28歳、棚旗奈々は26歳。
調べたくなる言葉
◆ミモザ
正月にカル・デ・サックでいつもの三人で集まっていたときに奈々が飲んでいた
カクテル。彼女のお気に入りの一つ。詳細は「QED 百人一首の呪」の記事参照。
◆「松竹梅」の本当の意味
おめでたい3つの植物として知られる松竹梅だが、桑原によると全く逆。
「松」は古字で柗(右下の「口」は「日」)と書き、八白の木、つまり、丑寅の
鬼門の木=鬼の木という意味。
「竹」は、「竹で家の周りを囲むと家が滅びる」や、「北側に竹藪を作ると貧乏になる」
という言い伝えがあり、さらに竹のように「中に空洞を持つ植物は、そこから異界への
道が通じているされて人々には非常に忌まれていた」
「梅」は、大怨霊、天満大自在天神、菅原道真を連想させる。
◆元旦の門松の意味
鬼の木である松を注連縄でぐるぐる巻きにして、門の外に締め出すことが
本質であると桑原は語る。また、この風習は、庶民の間だけで行われており、
宮中では行われていないとも語る。つまり、庶民が朝廷に敵対した人たちである
「鬼」を上記のような目に合わせるというところから、朝廷への忠誠心を
表すための風習だった。
◆節分の意味
節分も門松と同じように、庶民が「鬼」に豆をぶつけて追い出す行事。
(朝廷の人々は鬼ではなく疫病を祓っている)
◆雛祭りの意味
「自分の身の穢れを、身代わりとなってくれる人形に移して、
川や海に流してしまおうという、実に身勝手な行事」
◆「六部殺し」や「実盛送り」
どちらも雛祭りと同様のものと見ていいかもしれないと桑原は語る。
「六部殺し」は、日本各地に伝わる民話の一つで、ある百姓が旅の六部を殺して
金品を奪い、その後、その金を元に裕福になるが、生まれた子供が六部の
生まれ変わりであり、ある日、元百姓の罪を断罪するという話。六部とは、
六十六部の略で、六十六回写経した法華経を持って、六十六か所の霊場を巡回し、
一部ずつを奉納して回る巡礼僧のこと。
「実盛送り」は、西日本で行われている虫送りの行事。蝗がその化身だとされる
斎藤実盛に見立てた藁人形を作り、それを川に流すなどして村外へ追い出すことで、
豊作を祈願する。斎藤実盛は、平安時代末期の平氏方の武将であり、乗っていた馬が
田の稲株に躓いて倒れたことで、源氏方に打ち取られてしまったことを恨んで、
稲の害虫と化したという言い伝えがある。
◆目には青葉山ほととぎす初鰹
作中で、奈々が五月と聞いて思い浮かべるものの一つで挙げた俳句。
江戸時代前期の俳人、山口素堂の作品。夏の季語である、初夏の風物三つを
リズムよく並べた歌。
◆端午の節句の意味
「五月は俗に悪月と称し、禁多し」(荊楚歳時記)とあり、「五月蠅なす」
などの表現からも五月=悪月であると認識されていた。さらに、五月五日は
五が重なるところから、重五と呼ばれ、特に邪気払いを行っていた。
また、菖蒲=あやめ=蛇であることから、菖蒲を軒に吊るすという風習は、
門松と同じ意味を持つ。
◆桃太郎の家来たち
犬は「貴族の子分として仕えていた人たちへの蔑称」
雉は「木地」すなはち「山中に住んで、盆や椀などの日用器物を作っていた」
中世賤民の一形態である木地師
猿は「猿楽や、猿飼いのことで、あるき巫女や白拍子などと同様に『七道者』――
流浪漂白の呪術的芸能者」
そして、彼らと共に吉備に棲む鬼たちから財宝を奪おうというのが桃太郎である。
◆ブラウン運動
液体のような触媒中に浮遊する微粒子がランダムに運動する現象を指す。
1827年にイギリスの植物学者ロバート・ブラウンが水面に浮かべた花粉の動きから
発見した。作中では、山歩き中の外嶋が「もともと人間は、ブラウン運動を続ける
粒子のように大気中を無節操に漂い、無定見に跳ね回る存在」だと思索する。
◆東洲斎写楽
江戸時代中期の浮世絵師。浮世絵師として活動したわずか10ヶ月ほどの期間に
約145点の作品を残した。代表作に「三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」など。
作中では、舞台となっている1995年から200年前が寛政七年、東洲斎写楽が
姿を消した年であると紹介されている。
「東洲斎写楽」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年7月24日 10:09 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆フィトンチッド
樹木が傷つけられた際に発散する、殺菌作用を持つ化学物質。森林浴は
この物質に触れることで健康を維持することが目的とされる。作中では、
事件が発生した鷹群山周辺の自然に接して、岩築は人間は緑の近くで暮らして
この物質が無いとだめだと語る。
◆パラサイト・イヴ
SF、ホラー作家瀬名秀明のデビュー作のタイトル名で、
第2回日本ホラー小説大賞受賞作。太古の昔に生物に取り込まれたミトコンドリアが
人に対して反乱を起こすというホラー作品。作中で、衛生化学の研究棟に
桑原がいると聞いた小松崎が「パラサイト・イヴでもやってんのかな」と
つぶやくシーンが登場する。
◆ベックマンの超遠心分離機
ベックマン・コールター株式会社は、臨床検査分野及びライフサイエンス分野で
事業を展開するアメリカ企業。pHメータや分光光度計など展開した、
アーノルド・O・ベックマン博士創業によるベックマン社と、
コールターの原理(電解質溶液内の粒子の個数、体積を電気を用いて測定する原理)を
用いた血液中の成分を分析する機器などを元にW・H・コールター博士が創業した
コールター社が1998年に合併して誕生。超遠心分離機は分析したい対象を
超高速で回転させることで、含まれている成分ごとに分離する機器。作中では、
とても高価らしいこの機器を小松崎が乱暴に扱うのを見た桑原が注意する場面がある。
◆キール
カシスと白ワインのカクテル。詳細は「QED 東照宮の怨」の記事参照。
作中では、7月にカル・デ・サックへいつもの三人で集まったときに
奈々がいつものように飲んでいたカクテル。
◆癰(よう)
作中で、空海が水銀中毒によって引き起こされたこの病にかかっていたのではないか
と推測されている。身体の一部分に集中してできたおできのこと。
◆ジン・トニック
作中で、桑原が珍しく注文したロング・ドリンク(長い時間掛けて飲むカクテル)
として登場。ドライ・ジンとトニック・ウォーターを混ぜ、スライスしたライムを
加えて作られる。トニック・ウォーターは、炭酸水に香草類や柑橘類の果皮エキス、
砂糖などを加えて作られる清涼飲料水。元々は、作中で紹介されているように、
マラリアに効果があるキニーネを含んでいたため、熱帯地方のイギリス植民地人に
好んで飲まれていた。
◆チョウセンアサガオ
作中で事件のキーとなる毒を持った野草の一例として紹介されている。
南アジア原産のナス科の有毒植物。有毒成分であるトロパンアルカロイドは
幻覚や錯乱を起こさせる作用がある。作中で紹介されているように、
華岡青洲がこの植物から麻酔薬を作り出し、世界初の全身麻酔による乳がん手術
を行った。別名に曼陀羅華、ダチュラ、アトロパ・ベラドンナなどがある。
「チョウセンアサガオ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年8月11日 22:02 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆ハシリドコロ
チョウセンアサガオと同じく、事件で使われた可能性がある野草の一例として
紹介されている。本州から四国、九州にかけて分布するナス科の多年草。
根茎にチョウセンアサガオと同じ、トロパンアルカロイドを含む毒草。
「ハシリドコロ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2016年10月22日 11:24 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
ストーリー上の謎、ネタバレ
◆椙山伸彦と三輪田千里の事件について
両方の事件に直接関わっているのは金森良介であり、それを助けたのが広瀬世津。
椙山伸彦は千里と付き合っていながら、彼女の友人とも付き合っており、
それを咎めた金森良介との間で争いがあり、その中で金森が伸彦を
大振りの登山ナイフで刺してしまった。
その後、腹の傷を隠すために竹槍を突き刺し、山中へ放置した。竹槍を刺したのには、
「嘘を吐くと、お腹から竹が生える」という言い伝えに乗っ取るという意味もある。
(また、金森は千里が好きだったという背景がある)
三輪田千里について、広瀬世津は自殺であると述べ、明確に金森良介が殺したとは
述べられていないが、伸彦殺害の経緯を知った千里と金森の間でトラブルがあり、
殺してしまったという説が作中で提示されている。また、素戔嗚尊と同じく笠と蓑を
着けられていたことは、彼女に全ての穢れを押し付けてあの世に持って行ってもらう
意図があったのでは桑原は語っている。
◆魔のカーヴの謎
魔のカーヴで事故を起こした人間の共通点は、広瀬世津以外は直前に、
「織部の里」へ寄っている。そこで、広瀬世津によって、チョウセンアサガオや
ハシリドコロなどアトロピンを含む毒草を飲まされ、瞳孔が開いた状態で
カーヴへ侵入し、竹林越しに見えるペンション「バンブー」の灯りや、
鵲橋の照明に目が眩んでハンドル操作を誤ってしまったのだ。
◆広瀬世津が毒を盛った人たちの特徴と盛った理由
広瀬が毒を盛ったのは、結婚を控えた人たち、特に、斐田村出身者と織部村出身者
のカップルだったことが特徴。斐田村と織部村は昔から仲が悪く、両村の間に流れる
尼川を渡って恋人が会うとそこには災厄が生まれるという迷信が存在していた。
織部村出身の広瀬も元々その迷信を信じておらず、斐田村の朱知太一と
婚約を結んだが、陰陽師の弓削清隆によって、迷信を強化された太一の両親は、
恐怖心から橋に火をつけ、物理的に結婚できないようにした。不幸にもその火に
止めようとした太一が巻き込まれて落下し死亡した。この事故を受けて
広瀬は迷信を否定できない気持ちになっていった。
その後、両村にまつわる人間関係で、彼女が問題と考えた人に毒を
飲ませていたということが語られている。
また、両村の仲が悪い理由は斐田村は斐=軽い、なびくという意味から、
権力者に媚びへつらって偉い村という意味だとし、一方の織部村は、
朝廷にタタラ場を奪われて、賤民の職業とされていた機織りを産業として生きてきた村で
あるためだと桑原は説明している。
◆竹取物語の謎
桑原によると、作者不詳のこの作品の作者は紀貫之であり、作品の目的は
貴族たちにもてあそばれた低い身分の女性たち(帝の一夜妻であり、機織り)
の鎮魂の物語であったとされる。
作者を紀貫之だとする根拠は、かぐや姫に言い寄って恥をかいてしまう貴公子たち
のモデルである「大宝元年(701年)の公卿補任に名前がある人々」と同時期に
上位の役職者であった紀氏が含まれていないこと。
かぐや姫のモデルは垂仁天皇の時代の人物、讃岐垂根王の兄弟である、
大筒木垂根王の娘、迦具夜比売命ではないかと桑原は述べている。その根拠は、
大筒木垂根王が開化天皇と丹波竹野媛の孫であり、丹波竹野媛は「その神社に
仕えていた姫神がかぐや姫のモデルであるとされる」竹野神社を開いた女性であるため。
(讃岐垂根王は、竹取の翁の名、讃岐の造麻呂との名前の繋がりがある)
ただし、上記の人々は名前を借りられただけであり、かぐや姫の正体は、
衣通姫ではないかとしている。かぐや姫は光り輝く姫=衣通姫=肌が見えるくらい
薄く織られた高度な機織り文化=タタラ場を朝廷に奪われた人々と繋がる。
一方、竹=笹=砂砂(=片目のタタラの守り神、楽楽福神)
=蜘蛛(朱=水銀を知る虫)と繋がることから、かぐや姫はタタラ場を朝廷に奪われ、
◆かぐや姫と小野小町の関係
桑原はかぐや姫=衣通姫=小野小町であると語る。小野小町は古今集の仮名序で
「小野小町は衣通姫の流れなり」と語られており、さらに「衣通姫」は
「そとおしひめ」と読むだけでなく「そと『おりひめ』」とも読む。
織姫は織女=機織り姫であり、前項のかぐや姫の説明と繋がる。
◆かぐや姫と出雲の関係
出雲は古代日本を代表する一大タタラ場であり、朝廷によって力ずくで
奪い取られた人々が住む土地である。そして、かぐや姫はラストシーンで、
雲とともに降りてきた天人と共に、そのまま月の国へ帰っていくが、
それこそが、雲に分け入るとまで言われた古代の巨大な出雲大社へ入っていく
ことを意味していると桑原は語る。このことは、月=築=杵築の国=出雲と
繋がりからも示される。
<次回作>
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