「QED」シリーズの第9作。
1996年8月の出来事。
この年、桑原崇は29歳、棚旗奈々は27歳。
調べたくなる言葉
◆ヘルパンギーナ
プール熱などと同じく、子供が夏に掛かりやすい夏風邪の一種。
ウイルスの感染により発症し、発熱と口腔粘膜に水泡性の発疹ができる。
◆チベットのリンポチェ
化身ラマ、転生ラマとも表記される。チベット仏教の教義上において、
衆生を教え導くために、如来や菩薩、過去の偉大な修行者などが、化身として
この世にあらわれたラマ(チベット仏教の指導者)を指す。
◆ソムニフェルム種の蒴果
ソムニフェルム種は、ケシ科ケシ属の一年草のうち、
あへんの原料となる種のことを指す。日本ではあへん法で原則栽培が禁止されている。
(作中で外嶋が訪れた植物園は厚生労働大臣の許可を得た施設と思われる)
蒴果とはいわゆるケシぼうず(下図左下の絵参照)で、この表面に傷を付けて生じる
液体からあへんを採集する。
「ケシ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年12月7日 15:39 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆ヒマラヤのブルー・ポピー
ソムニフェルム種と同様、外嶋が薬用植物園講習会で見てきた植物。
ケシ目ケシ科メコノプシス属を指す。同種の多くはヒマラヤの高山地帯や
中国の高山地帯に分布する。以下写真は、一般的にヒマラヤの青いケシと
呼ばれるメコノプシス・ベトニキフォリア。
「メコノプシス属」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年4月21日 3:12 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆桂小五郎が隠れているかも知れない
鬼野辺健爾殺害事件で土蔵を調査中に、忍田警部が長持の中を調べるように
鑑識に指示を出した際の発言。
幕末の志士、桂小五郎(木戸孝允)が、長州藩の控え屋敷で愛人の芸妓、幾松と
一緒にいる際に、新撰組の襲撃を受けたが長持に身を隠して窮地を脱した
エピソードにことを指すと思われる。
◆八つ墓村や、鬼首村の手毬唄
岡山の古い家の土蔵で殺人事件があったと聞いた沙織はこの2作品を連想した。
どちらも昭和期に活躍した探偵小説作家、横溝正史の作品。
(どちらも探偵・金田一耕助が主人公)
「八つ墓村」は1949年の作品で岡山・津山で実際に発生した事件に題材を採った作品。
「悪魔の手毬唄」は1957年の作品で岡山と兵庫の境に位置する架空の寒村、鬼首村を
舞台に手毬唄の歌詞に沿って発生する殺人事件を描いた作品。
◆ナナちゃん人形
作中で厳しくツッコミを入れる奈々に対して沙織が、
「あんまりうるさいこと言うと、名古屋で降りて、ナナちゃん人形と
遊んできてもらうからね!」と返す場面が登場する。
ナナちゃん人形は名古屋駅前にある巨大にマネキン人形で、名鉄百貨店の
マスコットキャラクター。季節によって様々な衣装を身にまとうことで知られる。
「名鉄百貨店」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年10月15日 5:37 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆キャンディ・キャンディ症候群
作中で、奈々の周りで事件が起こり過ぎることを指して、
沙織が作った造語(と思われる)。
「キャンディ・キャンディ」は1975年から79年にかけて少女漫画雑誌「なかよし」
に連載された原作・水木杏子、作画・いがらしゆみこによる少女漫画。
20世紀初頭のアメリカ中西部⇒イギリスを舞台に、孤児院育ちの少女、
キャンディの成長を描いた作品。主人公のキャンディは前向きで明るい性格だが、
その成長の過程では数多くの試練が彼女を待ち受けている。そういったことを指して、
沙織は造語したのではないだろうか。
◆パユの演奏するブランデンブルク協奏曲
前項の場面で流れていたと思われる曲。
「エマニュエル・パユ」は1970年スイス生まれのフルート奏者。
バーゼル放送交響楽団や、ベルリン・フィルなどで活躍。
「ブランデンブルク協奏曲」は、1721年にヨハン・セバスティアン・バッハが
作曲した6曲からなる合奏協奏曲集。
ストーリー上の謎、ネタバレ
◆桃太郎説話の本質とは
桑原曰く、桃太郎つまり吉備津彦命が犬・雉・猿と呼ばれた人たちを
味方に引き入れて、吉備の支配者、温羅を討つという物語。
3者は全て吉備の人間だが、犬と雉はやむを得ない事情で温羅討伐に加わったが、
猿だけは温羅を裏切っているという違いある。
猿は楽楽森彦とされるが、ササ=砂砂=砂鉄というところから、
タタラに関係しており、とすると温羅とは仲間であったと考えられる。
また、鯉喰神社に猿田彦と共に祀られていることから、
仲間であったが裏切った存在であると考えられる。
(猿田彦は元々、瓊瓊杵尊と対立していたが、仲間を裏切って
瓊瓊杵尊の先導を務め、用が済むと殺されてしまった)
犬は、犬飼健命であるとされる。総理大臣、犬養毅の祖先であり、犬養家には
吉備津こまいぬという土人形の職人たちから冥加金が納められていたという
エピソードからも犬=犬飼健命であると推測される。
雉は留玉臣のこととされる。彼は鳥取部で、弓矢を使う軍団の長だったとされる。
朝廷は、温羅たちを勝手に「鬼」と名付けて侵略し、吉備の豪族たちを
分裂あるいは裏切らせて滅ぼしたが、そのことを糊塗するために作られた英雄譚が
桃太郎伝説であると桑原は語る。
◆鬼野辺家の殺人事件について
鬼野辺家長男・鬼野辺健爾及び妙見巧実を殺したのは鬼野辺家次男の圭祐。
圭祐が健爾を殺害したのは、鬼野辺家の釜が鳴る仕組みを妙見明日香に見せようと
していた健爾と反対する圭祐が揉めた結果。その際、地下道から脱出しようとして、
首から上だけ地上に残っていた状態で明日香に見られた。
そこで、健爾の首を切り落として床に置き、明日香が見た状態と
整合性を取ろうとしたのだ。
圭祐が巧実を殺害した理由は、巧実が上記事件の真相に気付き、
圭祐を呼び出して詰問したため。
圭祐を殺したのは、鬼野辺家長女の風見子。実際には、圭祐と風見子は
お互いの胸を刺して心中するはずだったが、圭祐が風見子を刺さなかった。
直接の原因は上記だが、圭祐が健爾を殺した理由にはさらに深いものがあり、
圭祐は鬼の家系である鬼野辺家の血を絶やす必要があると考えていた。そして、
圭祐がそう考えるに至ったのは、幼い日から丸部隆三から刷り込まれていたため。
丸部は妹が鬼野辺康一郎(健爾らの父)に孕ませられ、捨てられたため恨んでいた。
また、圭祐が風見子を刺さなかったのは、
風見子には鬼の血が流れていなかったため。(風見子の父は丸部だったため)
<次回作>
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