調べたくなる言葉
◆スタージョンの法則
1918年アメリカ・オレゴン州生まれのSF作家、セオドア・スタージョンの言葉から
生み出された格言で、「どんなものでも、その90%はカスである」というもの。
作中では、高梨が北島に宛てたメールの中で、作家としてこれまで数万枚書いてきたが、
その大部分はスタージョンの法則を実証する紙屑と自虐する内容がある。
◆某カルト宗教に対して破防法を使わなかったのは、腰抜け、腰砕けの極みである。
超タカ派だと高梨から評された蜷川教授の言葉。某カルト宗教とは、
本作の2年前の1995年の地下鉄サリン事件など、多くのテロ事件を起こした
宗教団体、オウム真理教のこと。破防法は正式には、破壊活動防止法で、
暴力主義的破壊活動を行った団体を指定することで、その活動を制限し、
罰則を加えるための法律。オウムへの適用が検討されたが、
適用要件の一つである、今後、継続して破壊活動が行われる恐れがあるかという
観点で反対意見が相次ぎ、適用は見送りとなった。蜷川教授はこのことを、
腰抜けだと評した。
◆フサオマキザル
漢字では、房尾巻猿と書く、オマキザル科オマキザル属に分類される猿。
南米アマゾンの森林地帯に生息する。チンパンジー並みに知能が高いことで知られる。
「フサオマキザル」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年1月12日 5:16 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆ウアカリ
オマキザル科ウアカリ属に分類される猿。作中で紹介されているように、
「頭が禿げ上がった鮮紅色の奇怪な容貌から、現地では『悪魔の猿』と呼ばれ」ている。
フサオマキザルと同じく、南米のアマゾン流域に生息している。
「uakaris」『Wikipedia, the free encyclopedia』
12 April 2019 at 00:51(UTC) URL : https://en.wikipedia.org
◆モンテアレグレ洞窟
アマゾン川流域のモンテアレグレ郊外にある、ペドラ・ピンダータ洞窟には、
約一万一千年前のものとされる壁画が発見された。以下画像のように
鮮やかな明るい色に特徴がある。ちなみに作中では、イリノイ大学の
アンナ・ルーズベルト教授らが年代測定を行ったと紹介されているが、
このルーズベルト教授は、第26代アメリカ大統領、セオドア・ルーズベルトの
孫娘である。
◆ヘリコニア
ショウガ目オウムバナ科に属する植物で、熱帯アメリカ原産。
オウムの嘴のような鮮やかな花を観賞するために栽培されている。
(ヘリコニアはオウムバナの園芸分野での呼び名)
作中では、高梨がアマゾンから北島へ送ったメール中に、
「乾期を愛する人は、歓喜にあふれる人。深紅のヘリコニアのような僕の恋人」
という歌を送っている。
「オウムバナ科」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2015年11月11日 12:00 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆薬害エイズ
1980年代に、血友病(血液が固まりにくくなる病気)の患者に、
非加熱の血液を原料とする血液凝固因子製剤を使用したことで
多数のHIV感染者を出してしまった事件。原料の血液が汚染されていたことが
原因だが、加熱処理をしていれば、ウイルスは不活性化していたことから、
当時の厚生省の不作為が問題視された。
作中では、北島が勤務するホスピスへ入院する上原康之が血友病患者だった
父親経由でHIVに感染したと紹介されている。
◆パテック・フィリップ
1839年に創業したスイスの高級時計メーカー。
オーデマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンと共に、
世界三大高級時計メーカーと称される。
作中では、高梨が金無垢のパテック・フィリップの時計を身に着けている。
◆ラプサン・スーチョン
中国・福建省産の紅茶で、茶葉を松葉で燻して作られるフレーバーティーの一種。
漢字では正山小種と書く。作中では、高梨と話しながら、北島がこのお茶の
香りを楽しむシーンが登場する。
◆ドーキンスの「利己的な遺伝子」
リチャード・ドーキンスは、1941年ケニアのナイロビ生まれのイギリス人で、
進化生物学者。1976年の著書「利己的な遺伝子」で「自然選択の実質的な
単位が遺伝子」であり、その比喩として用い、作中でも紹介されている
「すべての生命が遺伝子の乗り物でしかない」言葉が有名となっている。
彼はこの考え方で、個体の生存、繁殖には不利となる利他的な行動が、
遺伝子にとっては利己的な行動となっていることを説明した。
例えば、働きバチは献身的な利他的行動で知られるが、
それは自らと近い遺伝子を持つ、女王バチの子供の成長を助けることが、
自らの遺伝子を繁栄させるという点で利己的であるというように。
◆山田風太郎の「人間臨終図鑑」
山田風太郎は、1922年兵庫生まれの小説家で、伝奇小説、探偵小説、
時代小説の3ジャンルで活躍した。代表作に「魔界転生」などの「忍法帖」シリーズ
がある。
「人間臨終図鑑」は、英雄や武将、政治家などの歴史上の著名人の死に方を
集めた著作で、作中では、ウアカリ線虫のせいで、死への恐怖を快楽に
変換されてしまった高梨が、その興味を満たすために読んだ作品。
◆「オペラ座の怪人」の「マスカレード」
「オペラ座の怪人」はフランスの作家、ガストン・ルルーが1910年に
発表した同名の小説を基にしたミュージカル。1988年にトニー賞の
ミュージカル作品賞を受賞。「マスカレード」はその劇中歌で、
音楽を担当したアンドルー・ロイド・ウェバーの作品。作中では、
北島が携帯の着信音に使用していた。
◆ニンフォマニア
日本語では色情症と呼ばれ、性欲が異常な亢進状態になる症状。
ニンフォマニアは、女性の場合に使われる。(男性の場合は、サチリアジス)
作中では、高梨の最後の作品に「ニンフォマニアの尼僧」という言葉が登場する。
◆「前世は袋形動物の門をくぐり抜け、今生は毛顎動物門に吸い込まれる。来世は有櫛動物門、来来世は有鬚動物門が待っている。その次? 星口動物門か、そのたぐいだろうね。」
高梨の最後の作品の一節。袋形動物門は、かつて認められていた動物門で、
偽体腔(体腔=内臓などが収まっている部分が膜で分けられていないこと)を持つこと
が特徴。ワムシなどの輪形動物、線虫などの線形動物などが含まれる。
毛顎動物門は、海洋に生息する肉食のプランクトンからなる動物門。
有櫛動物門は、カブトクラゲ、ウリクラゲなどが含まれる。体が非常に脆弱である
ことが特徴。
「有櫛動物」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年3月26日 5:16 (UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
有鬚動物門は以前存在した動物門。現在は環形動物の一種、シボグリヌム科とされる。 海産の細長い生物で、消化器が存在しない。ハオリムシやヒゲムシなど
「シボグリヌム科」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年2月10日 5:08(UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
星口動物門は、海産の底生動物で、蠕虫状の無脊椎動物。スジホシムシなど。
「星口動物」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年1月4日 6:32(UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆プロザック
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors, SSRI)
に分類される抗うつ薬の一種。プロザックは、商品名でアメリカの製薬会社、
イーライリリー・アンド・カンパニー社が発売している。(日本では未承認)
薬品名としては、フルオキセチン。作中では、「地球の子供たちの」の合宿で
参加者に配られた薬品。
◆天使の荊冠美術館
那須高原にかつて存在した美術館、「天使の花冠美術館」が基となっていると
思われる。(2005年にリニューアルされた際に、「トリックアート迷宮?館」
に改称されている)「魔法の世界(ファンタジーとやマジック)を
『トリックアート』で実現」(公式ウェブサイトより)されている。
作中では、赤松がサファリパークへ行く前に寄った場所。
◆エゼキエルの幻視
エゼキエルは旧約聖書に登場するバビロン捕囚時代のユダヤ人預言者。
「エゼキエルの幻視」は、ルネサンス時代のイタリア人画家、ラファエロの作品。
作中では、北島が天使の羽が肉食鳥の羽をしていることを確認した作品。
「エゼキエル」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年2月5日 12:23(UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆荼枳尼天
荼枳尼天は、仏教の神で梵語のダーキニーを音訳したもので、元々は夜叉の一種。
日本では稲荷信仰と習合され、白い狐に乗った天女の姿で描かれる。
作中では、日本における「憑き物」に関する迷信は、この神への信仰から始まったと
紹介されている。
◆モンティ・パイソン
イギリスのコメディ・グループ。「クリムゾンの迷宮」の記事も参照。
作中では、ギリシャ神話に登場するガイアの息子の一人、Typhonが、
太陽神アポロと戦った時に子音が入れ替わってPythonと呼ばれるようになった
という解釈が述べられる一節で、モンティ・パイソンのパイソンと説明がある。
◆トリトリグモ
熱帯地方に多く生息する大型のクモで、ハチドリなどの鳥を食べることがあるため、
この名がある。一般的には、タランチュラの名前で知られる。作中では、
クモ嫌いから一転してクモ好きになってしまった萩野信一がペットショップで
この種のクモを購入し、シャロンと名付けていた。
◆ユングの言う共時性(シンクロニシティ)
カール・グスタフ・ユングは、1875年スイス生まれの精神学者。
分析心理学の分野で業績を残した。フロイトから影響を受けたが、
「リビドー」の概念をフロイトは「性的衝動を発動させる力」と定義したのに対し、
ユングは、より広い意味で捉え、全ての本能のエネルギーと定義したため、
袂を分かった。また、人間の無意識の奧底には人類共通の素地(集合的無意識)が
存在し、共時性という意味のある偶然の一致があることを主張した。
作中では、ウアカリ線虫の爬行疹がメドゥーサの首に見えると話した北島に対して、
依田が寄生した生物の血中でボール状に集まって移動する線虫の様子が、
メドゥーサ・ヘッド・フォーメーションと呼ばれていることを紹介する際に、
共時性という言葉を口にした。
◆米長、石田検校
米長邦雄は1943年生まれの将棋棋士で、タイトルをのべ19期獲得し、
特に棋聖位は通算7期獲得し、永世棋聖となっている。
石田検校は、江戸時代中期に活躍した盲目の棋士。現在でも三間飛車の戦法に、
石田流の名前を残す。作中では、五十三で視力を、そして命を失いつつあった、
青柳が49歳11か月で名人位を獲得した米長、盲目の棋士、石田を引き合いに出して
無念を語るシーンが登場する。
◆手賀沼
千葉県北部に存在する沼。現在は干拓が進み二つの沼に分かれている。
作中で紹介されているように、大正時代には、志賀直哉や武者小路実篤の別荘が
あり、白樺派のゆかりの地であった。1974年から2001年まで水質が、
全国の湖沼でワースト1位であった。
作中では、その汚い水の中で、潔癖症であった滝沢優子がここへ入水して自殺した。
◆マドレデウスの「禁じられた旅」
1985年にポルトガル・リスボンで結成されたバンド。ポルトガルの民族歌謡、
ファドにクラシックやポップミュージックの要素を取り入れた音楽を発表している。
「禁じられた旅」は、1995年に発表したアルバム「Ainda」(映画「リスボン物語」
のサウンドトラック)への収録曲。作中では、「地球の子供たち」のホームページ
で流れていた曲。
◆フィアット・パンダ 4×4
イタリアの自動車メーカー、フィアットが1980年に発売した小型の
ハッチバック車。名称は動物のパンダに因むが、それは中国市場を意識して
開発されたことによる。作中では、依田の愛車であった。
「フィアット・パンダ」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年4月6日 8:23(UTC) URL : https://ja.wikipedia.org
◆マリー・セレステ号
全長約31m、282トンの2本マスト帆船で1861年に建造された。
1871年11月7日、アメリカ・ニューヨークからイタリア・ジェノヴァに向けて
出航したのち、同年12月4日にまだ航行できる状態にも関わらず、
乗組員が誰もおらず、遺棄されているところが発見された謎の船。
作中では、依田と北島が踏み込んだ「那須高原セミナーハウス」が、
つい最近まで人がいたようなのに誰もいない様子をこの船に例えられている。
◆アドルフ・アダンの「おお聖夜」
アドルフ・アダンは1803年フランス・パリ生まれの作曲家。
舞台音楽を多く作曲し、特に、バレエ音楽「ジゼル」、オペラ「我もし王なりせば」
などが知られる。「おお聖夜」も同じく代表曲の一つで、作中では、
北島が勤めるホスピスのクリスマスに流れていた曲で、北島はこの曲が好きだと
語っている。
ストーリー上の謎、ネタバレ
◆ブラジル脳線虫(ウアカリ線虫)とは
ウアカリを本来の終宿主とする線虫であるが、その他霊長類であっても
同じように感染可能。アマゾン奥地の水没林(バルゼア)の一つである、
「呪われた沢」周辺に生息するため、ウアカリにしか広がっていない。
感染したウアカリは、捕食者に積極的に食べられに行くため、
泳ぎが得意なジャガーに捕食され、その糞から昆虫などの未知の中間宿主を経て、
再びウアカリへというサークルが存在していると考えられる。
◆ブラジル脳線虫に感染したサル、人間はどうなるのか?
霊長類の体内にいるときだけ、爆発的に増殖しする。霊長類の体内に侵入すると、
脳の快楽神経A10神経を目指して移動し、食い込む。線虫はそこで、宿主の恐怖や
ストレスなどマイナスの感情をプラスの感情に変換している。
より強いマイナスの感情を感じるほど強いプラスの感情に変換する、つまり、
より強い快楽を感じさせている。感染後の、宿主への影響は、
四つの段階に分類される。
まず、第一段階は、A10神経に刺激を加え始めた時期で、気分爽快となり、
活動性が高まる。また、線虫の増殖を助けるために食欲が旺盛になる。
第二段階では、爽快感は病的なまでに亢進し、繁殖期でもないのにしきりに
求愛行動を取るようになる。これは他個体への感染を広げるためと考えられる。
(爬行疹は第一段階から第二段階の始めにかけて現れる。また、脳に侵入する過程で、
宿主に天使の羽ばたく音や囀る声を聴かせる)
第三段階では、一転して一種の無感動状態に陥る。野生では、活動性が低下した
時点で捕食されるため大抵の場合はこれで終わる。
第四段階では、線虫は可能な限り個体数を増やそうとして、宿主のDNAに干渉し、
体組織を作り替える。例えば、胴体の容積を増やして増殖するスペースを作り、
その際に体を支えるために肋骨の形状を網状に作り替えることや、
不要となる手足などを分解して養分を吸い上げるなどが行われる。
そして、次の宿主へ移動する機会を探し続けることになる。
◆ブラジル脳線虫に感染した登場人物の死に方まとめ
蜷川教授(=庭永)、森助手(=めめんと※1)など、快楽を抑える薬を
服用していたり、萩野信一(HNはサオリスト※2)のクモのように、
恐怖の対象を極端に愛好するようになっても死に至るようなものでなかったり
した感染者たちは、セミナーハウスで第四段階まで至って死亡。
※1)本名の森と繋げるとメメント・モリというラテン語で「死を忘れるなかれ」
という言葉になる。
※2)恋愛SLG「天使が丘ハイスクール」の登場人物から
第四段階まで至らなかった感染者は、自分が最も嫌いなもの、恐怖を感じる対象
が強い快楽を得られる対象に変換された際に、行き過ぎてしまい結果的に
自殺という形で死亡。
死を極度に恐れていた高梨光弘は、死ぬこと自体に快楽を覚えて睡眠薬を
過剰に摂取して自殺。
動物を恐れていた赤松靖は、サファリパークで、ホワイト・タイガーの前で
身を横たえ、襲われて死亡。
子供を失うことを何より恐れていた白井真紀は、子供を殺した後、自らも自殺。
幼い頃に負った顔の傷がトラウマになっていた畔上友樹(HNはファントム※3)は、
その傷を負ったメッキ溶液に顔を浸して自殺。
尖端恐怖症であった吉原逸子(HNは憂鬱な薔薇※4)は、果物ナイフを右目から
脳に至るまで深く差し込んで自殺。
潔癖症であった滝沢優子(HNはトライスター※5)は、アオコが大量に発生するなど汚い
手賀沼で入水自殺。
※3)醜い容貌の主人公が登場するミュージカル「オペラ座の怪人」
(ファントム・オブ・ジ・オペラ)から
※4)薔薇好きであったことと憂鬱になりがちな自分とを組み合わせた?
※5)囲碁棋士を目指していた彼女が得意としていた「三連星」の布石から、
「三つの星」を英語にしたもの
その他番外編として、感染後、北島に感染させようとして、ある意味返り討ちにあった
依田健二がいる。また、生き残った北島は、HIV感染による悪性のリンパ腫で
余命幾ばくもない上原康之に、残りの人生を少しでも楽に過ごしてほしいと
思って感染させた。
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