「青の炎」の謎・ネタバレ

広告




 

調べたくなる言葉

◆最近東京を騒がした有名な強盗が~

 梶井基次郎が1930年に発表した短編小説、「闇の絵巻」の一節。
作中では、国語の授業で大門が、教科書に掲載されたこの作品を朗読する場面が登場する。

 

◆檸檬

 梶井基次郎の代表作で1925年に発表。憂鬱に襲われた主人公が
果物屋で買ったレモンを、爆弾に見立てて洋書店・丸善に置いてくる。
そのレモンが爆発するところを想像することで、
主人公は愉快な気分を取り戻す。
作中では、櫛森がこの作品を読んで、「病的なまでに繊細な感受性の持ち主だという印象
だったが、写真を見ると、日本史の教科書に似ている近藤勇に似ている」
と感想を漏らす。

Motojiro kazii.jpg
「梶井基次郎」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2019年1月13日 14:05 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

Kondo Isami02.jpg

「近藤勇」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年11月11日 7:27 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆罪と罰

 ロシアの小説家、ドストエフスキー(「羊をめぐる冒険」の記事参照)1866年に
発表した長編小説で代表作の一つ。主人公ラスコーリニコフが、
悪名高い高利貸しのアリョーナを殺害し、その金を社会のために役立てようとするが
その際、現場を見られたアリョーナの義妹も殺してしまう。彼はその後罪の意識に
苛まれることになり、自殺も考えるが、最後は妹ソーニャの説得で自首する。
作中では、「キリスト教的な強迫観念やスラブ的憂鬱などを実感を持って
理解できる日本人が、どれだけいるというのだ」と何もする前の櫛森が
考えるシーンが登場する。

 

◆江戸川乱歩「心理試験」

 江戸川乱歩は1894年三重県生まれの小説家。大正から昭和にかけて、探偵小説を
多く残した。ペンネームはアメリカの小説家エドガー・アラン・ポーに由来。
代表作に、探偵・明智小五郎を主人公としたシリーズ、明智の助手・小林少年を
主人公とする少年探偵団シリーズがある。
「心理試験」は、1925年に発表された短編小説で、「罪と罰」を下敷きにした作品。
主人公は自身の下宿先の大家が大金を持っていることを知り、
彼女を殺してその金を若い自分が使う方が有効と考え殺害を企てる。
彼は自分が疑われないよう綿密に計画を立てて、心理学を得意とする予審判事からの
尋問も完璧に切り抜けるが、明智小五郎にその完璧さを疑われる。
作中では、櫛森が、罪と罰より「数段、よくできていると思う」シーンが登場する。

 

◆菊と刀

 1946年にアメリカの文化人類学者ルース・ベネディクトによる、
日本文化を説明した著作。日本の文化を外的な批判を意識する「恥の文化」であると
定義し、欧米の内的な良心を意識する「罪の文化」と定義した。
作中では、櫛森が上記考え方から「日本では、露見しない犯罪は、犯罪ではないことに
なるではないか。つまり、日本人は、民族的に、世界で最も完全犯罪に向いている
かもしれない」と考える場面がある。

 

◆浅野内匠頭

 播磨赤穂藩の第3代藩主。彼が殿中で吉良上野介を切りつけたことに端を発する
赤穂事件が演劇化された「忠臣蔵」を通じて名を知られる。
作中では、櫛森が「合理的な判断を放擲し、激情の赴くままナイフを出して、
人を刺すのでは、浅野内匠頭と同じだ」と考える場面がある。

 

◆武蔵川部屋

 本作が発表された2003年時点では、元横綱・三重ノ海である武蔵川親方が、
1981年に出羽海部屋から独立して創設された相撲部屋。
横綱・武蔵丸の他、出島、武双山、雅山の三大関を輩出するなど一時代を築いた。
作中では、誰にも嫌われない「無敵」の大門の、「無敵」を誰にも負けないと勘違いした
他校の不良が待ち構えていたというエピソードで、その不良が百キロ以上あったと
思われるため、武蔵川部屋かどっかにスカウトすればよかったと、
櫛森が冗談を言うシーンが登場する。

 

◆天網恢恢……

 「天網恢恢疎にして漏らさず」は、「老子」に登場する言葉で、
「天の網は一見荒いようでいて、悪人を網の目から漏らすことはない」、
つまり悪事を行えば必ず罰せられるという意味。
作中では、作家にはモラリストが多いからか、こういうラストが多いと
櫛森が考えるシーンが登場。

 

◆大学への数学

 大学受験における数学を扱った東京出版が発行する雑誌。1957年から発行されている。
最難関国立大理系学部志望者が主な読者。作中で、櫛森が「完全犯罪の方法を
考案するのは、『大学への数学』のDランクの問題を解くより、歯ごたえがあった」
と考えるシーンが登場する。ちなみにDランクとは、最高難度の問題。

 

◆フェイ・ウォン

 1969年中国生まれの歌手。中国語圏を代表する歌手で、
日本でもゲームソフト「ファイナルファンタジーⅧ」の主題歌「Eyes On Me」を
担当し、オリコン洋楽チャートで19週連続1位を記録。作中では、
櫛森がガレージで聴くシーンが登場する。

 

◆メラトニン、プロザック、ロゲイン

 作中で、櫛森が怪しげな薬物販売サイト「K’s Convenience Pharmacy」で
見つけた薬物のうち、一般的な3種。

メラトニンは、ホルモンの一種であり、催眠・生体リズムの調節機能を持つ。
また、強力な抗酸化作用を持つ。アメリカでは、サプリメントとして販売されている。

プロザックは、1988年にアメリカの製薬会社イーライリリー・アンド・カンパニーが
発売した抗うつ剤の一つ。

ロゲイン(ミノキシジル)は、1960年代にアメリカのアップ・ジョンが高血圧用
内服薬として販売を開始されたが、発毛効果が発見されたため、80年代からは
脱毛症の治療薬として使われている。

 

◆クラウド9X、5-HTP、セントジョンズワート

 櫛森が「K’s Convenience Pharmacy」で見つけた薬のうち、
前項項目の次に名前が登場する3種類。

クラウド9Xは、アメリカで「セックス・ドラッグ」と呼ばれる、あかん薬。

5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)は、精神を安定させる役割を持つ、
セロトニンの前駆物質。アメリカではサプリメントとして買えるが、
日本では医薬品。副作用があり服用には注意が必要。

セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)は、オトギリソウ属オトギリソウ科
の植物の名前。ハーブとして使用され、うつ病や不安障害の緩和に効果がある。

 

◆サンメール内服液、サンリズム、ザンタック錠、サンディミュン、シアナマイド液

 櫛森が「K’s Convenience Pharmacy」で見つけた薬のうち、目的としていた
シアナマイド液とそこに至るまでに登場したサ行の薬。

サンメール内服液は、アルギン酸ナトリウムを主成分とし、胃の粘膜の保護、
十二指腸潰瘍、胃炎の鎮静化に有効な薬。製薬会社は東亜薬品。
カイゲンファーマが販売するアルロイドG内服液の後発薬。

サンリズムは、ピルジカイニド塩酸塩水和物を主成分とする不整脈治療薬。
製造元は第一三共。

ザンタック錠は、ラニチジン塩酸塩を主成分とする胃潰瘍、十二指腸潰瘍の治療薬。
製造元はグラクソ・スミスクライン。

サンディミュンは、シクロスポリンを主成分とする免疫抑制剤。
製造元は、ノバルティスファーマ。

シアナマイド液は、シアナミドを主成分とする酒量抑制剤。製造元は田辺三菱製薬。
作中では、櫛森はアセトアルデヒドの分解を阻害するこの薬を
酒に混ぜて曾根に飲ませることで、酷い二日酔いに似た症状を引き起こすことに成功した。

◆ピーター・アーツ

 1970年オランダ・アイントホーフェン生まれの元プロキックボクサー。
キックボクシングのプラットフォーム、K-1の舞台で活躍し、’94,’95,’98の
3回王者に輝いている。作中では、櫛森は妹の遥香の部屋のドアを強化した後で、
彼でも容易に蹴破ることはできないだろうと考えた。

 

◆ヒッチコックの「鳥」

 アルフレッド・ヒッチコックは1899年イギリス・ロンドン生まれの映画監督。
サスペンス映画の名作を多く残し、代表作に「バルカン超特急」「ダイヤルMを回せ」
「サイコ」など。
「鳥」も代表作の一つで、1963年に公開のサスペンス映画。身近な鳥たちが
突然人間を襲いだすという動物パニックもの。作中では、江ノ島付近を飛び回って
観光客の食べ物を奪うトンビのことをこの映画の鳥みたいと福原が言うシーンが登場。

 

◆眠狂四郎

 柴田錬三郎の小説に登場する剣客。転びバテレンと日本人女性の間に生まれたという
出自を持つ。端正な容姿とその出自からくる虚無感、孤独感を併せ持つキャラクター。
円月殺法という剣術を用いて活躍する。
作中では、櫛森が杉山大輔につけたあだ名「四郎」の元ネタ。遅くまで勉強しすぎてか、
一年のときに一時間目も二時間目も三時間目も寝るという荒業を得意にしていたため、
眠り狂「四郎」と命名した。

 

◆ラ・マンチャの男

 セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」をもとにしたミュージカル作品。
1965年にブロードウェイで初演された。

 

◆サラ・ブライトマン「So Many Things」

 サラ・ブライトマンは、1960年イギリス生まれの歌手、女優。
女優としては、80年代にミュージカル女優として活躍し、「オペラ座の怪人」など
に出演した。歌手としては、上記「オペラ座の怪人」の挿入歌、
「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」や「クエスチョン・オブ・オナー」
「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」が代表曲。
「So Many Things」は、1998年発表のアルバム「eden」への収録曲。
作中では、櫛森がこのアルバムを聴くシーンがあり、この曲が一番好きだと言っている。

 

◆夏目漱石の「こころ」

 夏目漱石は1867年現在の東京・新宿生まれの小説家。
帝大卒業後、松山、熊本で教鞭を取ったのち、イギリスへ留学。帰国後は、
帝大で英文学を教える傍らで作家活動を開始。1907年には、専属の作家として、
朝日新聞社に入社する。「吾輩は猫である」「坊ちゃん」「三四郎」など
名作を多数残す。
「こころ」は、1914年に発表された長編小説で代表作の一つ。「彼岸過迄」「行人」と
合わせて後期三部作と呼ばれる。「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の
三部で構成され、語り手である私が謎めいたところのある先生と知り合い、
先生が自らの過去の罪(友人を出し抜いて思う人に結婚を申し込んだところ、
それを知った友人が自殺してしまったこと)の重みに耐えかねて自殺するところまで
描いた作品。作中では、国語の授業の題材として登場し、櫛森が先生は自ら手を
汚していない、犯罪ですらない出来事に何故ここまで後悔し、気に病まなければ
ならないのか理解できないと述べる。

 

◆カーペンターズ「雨の日と月曜日は」

 カーペンターズは、1969年にアメリカで結成された兄妹音楽デュオ。
兄のリチャード(楽器担当)と妹のカレン(ボーカル)のカーペンター兄妹で
構成。70年代に数多くのヒットを飛ばし、グラミー賞で3度、
最優秀ボーカル・グループ賞を受賞している。代表曲は、「遥かなる影」、
「イエスタデイ・ワンス・モア」「トップ・オブ・ザ・ワールド」など。
「雨の日と月曜日は」は代表曲の一つで、1971年発表のアルバム「カーペンターズ」
に収録された曲で、シングルとしても全米2位を記録。
作中では、石岡を殺す用意を整えた日の翌日の雨の月曜日に、
櫛森の頭の中で流れていた曲。

 

ストーリー上の謎、ネタバレ

◆櫛森の通学ルート

 自宅の位置は明確ではないため、鵠沼駅周辺と仮定し、
由比ヶ浜高校の位置も明確ではないため、由比ヶ浜駅に仮置きした。
作中での描写から、境川を渡り、467号を南下、江ノ島を過ぎると、
小動から134号に入る。そこからは海沿いをひたすら走り、
由比ヶ浜駅が近づくと134号から離れる、というルートを走っている。

 

◆なぜ櫛森は曾根と石岡の二人を殺したのか?

 曾根は、母・友子を襲っていることを秀一が知ったため。
元々、妹の遥香を守るために、曾根を排除しなければと考えていた秀一だったが、
上記場面に出くわしたことで、母親を守るためにも、と最後の決断をした。

 石岡は、櫛森が曾根殺害後に証拠となるコードなどを埋めているところを
目撃し、それをネタに脅迫をしたため、殺す決断をした。

 

◆櫛森は曾根、石岡をどのように殺したのか?

 曾根は、事前にシアナマイド液を入れた酒で前後不覚の状態にしておき、
コンセントから変圧器で電圧を上げた電流を、鍼(足三里のつぼ)と、
ミノ虫クリップ(銀歯)との間に流し、心臓を止めて殺した。
その際、櫛森は美術の時間に外で絵を描いているという体で教室を抜け出し、
隠しておいたロードレーサーで学校-自宅間を高速で突っ走ってアリバイ工作をしている。
(学校への帰り道で、変圧器、鍼、コードなど証拠になるものを砂浜に埋めたが、
それを石岡に発見されたことが第2の殺人の原因となった)

 石岡は、櫛森から狂言でコンビニ強盗を行うことを唆され、
櫛森が木で作ったダミーナイフでコンビニを襲ったところを、
櫛森の持つ、本物のナイフで刺されて殺された。
石岡は櫛森を第1の殺人をネタに恐喝しており、その金の受け渡しのために、
コンビニに置いてある現金を渡すため、と言う口実で狂言に乗った。
一部始終は、監視カメラに映されており、櫛森としては最悪でも正当防衛となる
目論見だった。ダミーナイフは事件後、コンビニ近くのポストから、
櫛森が借りている私書箱へ郵送された。

 

◆なぜ二人を殺したことが警察に露見したのか?

 警察は2件どちらについても櫛森の関与を疑っていた。
1件目については、ミノ虫クリップに取り付けた銀歯が電流の熱で変形し、
歯から外れてしまったことなどで疑われており、
2件目は、ビデオを分析する中で、石岡が刺された状況が事故と見るには不自然な
状況であったことから。
二つの事件が結びついたのは、石岡の家からY字クリップ等の櫛森が
砂浜に埋めた証拠品が見つかったこと。さらに、Y字クリップに巻き付けていた
絶縁テープに櫛森の指紋が見つかったことから。

 

◆ラストシーンについて

 櫛森は曾根を殺害するにあたって、一番気にしていたことは、
いかに露見せずにできるかであった。元々の動機からして、家族を守ることであった
ため、露見して家族が社会的生活を今まで通り行えなくなってしまっては
意味が無いと考えたのだ。その思考からすると、ラストシーンにおいて、
櫛森が家族を守る方法は、自殺なのか事故なのか分からない原因で死ぬことしか
無かったのだ。死んでしまえば、被疑者死亡で書類送検で済むという読み、
さらにはその場合、メディアへも発表されないという読みがあった。
正確には、証拠となる私書箱の鍵を福原が持っており、それが警察に渡れば
容疑は固まるだろうが、福原はおそらくそれをしないであろう。

 

広告




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です