「オーデュボンの祈り」の謎・ネタバレ

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調べたくなる言葉

◆カオス理論

 初期条件のほんのわずかな差が、最終的に大きな差になるような現象を
扱う理論。ブラジルの蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を起こしうるか?という
問いかけで知られるバタフライ・エフェクトはカオス理論が持つ、
初期値鋭敏性、予測困難性をよく表している表現。
(蝶が羽ばたくような小さなかく乱が、遠くの場所の気象に影響を与えうるとしたら、
観測誤差をゼロにできない限り、正確な長期予報は根本的に不可能だと言える、
という気象学者エドワード・ローレンツによる問いかけ)
 作中では、優午の未来予測が遠くになるほど特定できなくなると聞いた、
伊藤がそれはカオス理論だとつぶやく。

 

◆支倉常長

 1571年(元亀2年)に現在の山形生まれの武士で、伊達政宗に仕えた。
1613年(慶長18年)伊達政宗がヨーロッパとの通商を求めた派遣した、
遣欧使節団の正使として、ヌエバ・エスパーニャ(メキシコ)、
エスパーニャ(スペイン)、ローマなどを歴訪。各地で通商交渉を行ったが、
派遣後に幕府の方針が禁教に変わったこともあり、成功しなかった。
作中では、彼が帰国後に荻島をヨーロッパとの交流所、ヨーロッパ人の保養所と
したとされる。

 

◆エイリアン

 1979年に公開されたリドリー・スコット監督によるSF映画。
2122年の未来を舞台に、大型宇宙船にエイリアンが(異星人)が侵入し、
乗組員が次々と殺されていくというSFホラーの傑作。
アカデミー賞では視覚効果賞を受賞。
本作での唯一の生き残りを主人公としたエイリアン2も制作されている。
作中では、伊藤の祖母が「エイリアン2」を観て、話のつづきには、たいてい嘘が
混じり始めるものだと語る。伊藤はその言葉を聞いて、彼女は「エイリアン」の方は
現実だと信じていたのかもしれないと述べる。

 

◆蓄音機に耳を傾ける犬のマーク

 かつて存在した映像機器、音響機器メーカー、日本ビクターが登録商標と
していたロゴ。(2011年にケンウッドなどと合併し、JVCケンウッドとなっている)
 イギリスの風景画家、マーク・ヘンリー・バロウドが飼っていた犬、
ニッパーをモデルに、マークの弟、フランシス・バロウドが描いた絵が基になっている。
作中では、伊藤の祖母が動物は音楽なんて聴かないといいつつ、このロゴを
見ると可愛いもんだねと顔をほころばせたするエピソードが紹介されている。

 

◆チャーリー・パーカー

 アメリカのジャズ・ミュージシャン。詳細は「国境の南、太陽の西」の記事参照。

 

◆松陰吉田寅次郎

 1830年(文政13年)長州(現在の山口県)生まれの武士。
明治維新の精神的、思想的指導者として知られ、私塾「松下村塾」では、
久坂玄瑞、高杉晋作、伊藤博文、山縣有朋など幕末明治期に活躍した人物を多数輩出。
作中では、優午を作った禄二郎が彼と出会ったエピソードが紹介されている。

 

◆リョコウバト

 北アメリカ大陸の東海岸に生息していた渡り鳥。夏はニューヨーク付近から五大湖
周辺で営巣し、冬はメキシコ湾岸で越冬していた。18世紀には50億羽ほどいたと
推測されるが、19世紀に入るとアメリカの人口増や通信手段の発達によって、
より多くのリョコウバトが狩られるようになり、個体数は激減し、
20世紀初頭に絶滅した。作中にあるように、膨大な個体数がいたにも関わらず、
群れていないと繁殖ができない、年に一回の繁殖期、一度の繁殖で一個の卵など、
繁殖力が弱かった。

リョコウバトの若鳥、成鳥のオスとメス

左:若鳥、中:オス、右:メス
「リョコウバト」『フリー百科事典ウィキペディア日本語版』
2018年7月4日 5:45 (UTC)  URL : https://ja.wikipedia.org

 

◆ベン・ハー

 ルー・ウォーレスによる同名の小説を原作とする1959年公開のアメリカ映画。
(それ以前にも2回映画化されている)
ウィリアム・ワイラー監督による本作は、アカデミー賞で作品賞、監督賞、
主演男優賞など、11部門を受賞した。帝政ローマの時代、旧友に裏切られ、
罪を着せられ奴隷の身分に落とされた裕福なユダヤ貴族、ベン・ハーの
過酷な運命を、彼の人生の随所で登場するイエス・キリストを絡めて描いた作品。
作中では、田中が歩く姿と、この映画に登場するキリストが、十字架を背負って
重苦しく歩く姿とが似ていると伊藤が感じるシーンが登場する。

 

ストーリー上の謎、ネタバレ

◆タイトルの意味

 ジョン・ジェームズ・オーデュボンは1785年西インド諸島の
サン・ドマング(現ハイチ)生まれの鳥類研究家であり画家。
1838年発表の北アメリカの鳥類を写実的に描いた「アメリカの鳥類」で知られる。
 作中では、彼は1813年にケンタッキー州でリョコウバトの大群に出会い、
三日間、頭上を飛び続けた鳩の群れに感動したエピソードが描かれている。
 オーデュボン自身も約100年後に絶滅するとは思っていなかっただろうが、
彼の画集のリョコウバトの絵は田中の目には「祈り」に見えた。そして、さらに
「壮大な景色が永遠に続くことを望み、祈っていた。そうに決まっている」
と述べている。その祈りと、優午の島の運命を祈るという言葉を重ねたものが、
「オーデュボンの祈り」というタイトルに繋がっているのではないか。

 

◆優午と彼が壊された日について

  1855年(安政二年)に禄二郎によって作られたカカシ。
支倉常長がヨーロッパへ渡った際に使った船、サン・ファン・バウティスタ号に
使われていた欅の棒材を材料とし、棒に無数の傷、穴を開け、そこを風が通ることで
喋るようにした。また、何でできているか分からない球体に、
白い絹を被せたものを頭とし、その中に小さい虫を入れてそれが動き回ることで、
思考をできるようにされた。 
 優午が壊された後、伊藤と日比野の間で優午は自分が死ぬことを知っていたのか
という話題が話されたが、答えは「知っていた」だった。なぜなら、
自ら田中に引っこ抜くことを依頼したから。引っこ抜くことを依頼した理由としては、
三つ挙げられている。一つは、未来のことを聞かれ続けることが嫌になった、つまり、
神様の地位から降りたくなったため。二つ目はかつて襲われることを知っていながら
助けなかった園山の奥さんが死ぬことを知ったため、最後に謝りにいくため。
(謝るためには、引っこ抜かれなければならず、その後、園山に頭を拾わせている)
三つ目は、曽根川を殺すため。優午が死ねば、島民は生前に優午に依頼された
(曽根川を殺すための)役割を確実に実行してくれると考えたため。

 

◆曽根川を殺したのは誰か?また、なぜ殺されたのか?

 優午の計画に基づいて、島民の多くが関わった。殺された理由は、曽根川が
田中が発見したリョコウバトの生き残りを撃ちに島へ渡ってきたため、
それを阻止するため。優午は以前に、鳥たちからリョコウバトが虐殺されていることを
聞いて心を痛めていたため、我慢できなかったのだと思われる。
 各島民がしたことは、まず、佳代子が日比野をデートに誘い、日比野は伊藤に
演出のため、自転車のライトを照らし続けるよう頼んだ。一方、田中は同じ時間に、
曽根川を河原に呼び出していた。田中は轟が優午に頼まれて運んできていたブロックを
たまたま手に持っていた。曽根川は伊藤が照らしたライトに目が眩んで
よろめいたところで、若葉が作った草の罠にたまたま引っかかって転んだ。
そこへたまたま、田中がブロックを落としてしまいそれが頭に当たって死んだ。

 

◆荻島に欠けている大事なものとは?

 音楽。荻島には音楽が無かった。例外として轟は外の世界からステレオセットを
持ってきており、それを秘密の地下室に隠して聴いていた。
 言い伝えでは、「島の外から来た奴が、欠けているものを置いていく」
と言われているが、それは伊藤のことを指していたと思われる。伊藤は絵葉書で、
元恋人の静香に対して、君のサックスが聴きたいと書いたことが、
ラストシーンでそれが実現する原因となったからだ。

 

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