※この記事では、講談社文庫版の4巻及びストーリー上の謎、ネタバレについて記述しています。
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調べたくなる言葉
◆サヴァン症候群
知的障害や発達障害がある人の中で、
ごく一部の、特定分野について突出した能力を示す人の症状を指す。
具体的には、本を一回読んだだけで細部まで暗記する、驚異的な速さでの暗算する、
言語習得能力に優れ、十数か国語を操るなどが挙げられる。
ストーリー上の謎、ネタバレ
まずは「私」の「疑問点の整理」に基づいて謎を確認する。
◆あの<宴>は何なのか? あの料理は何だったのか?
宴はダリアの誕生日であり、命日である9月24日に催される晩餐のこと。
宴の参加者は、不死の魔女であるダリアの血、肉、骨を食することで、
ダリアの祝福によって、不死性を得ることができるとされる。
参加資格は、ダリアの血縁とその配偶者が原則だが、「私」のように
例外が認められないわけではない。
◆ダリアとはいかなる人物だったのか?
流行り病で最初の妻子を失った玄遙が、37歳のとき、傷心を癒すために向かった
イタリア・ヴェネツィアで出会った女性。
元の名前はダリア・ソアヴィ。フィレンツェ近郊出身で当時23歳。
14歳のときに<闇の王>と取り交わした契約によって、不死を得られたとされる。
また、ダリアの血を与えられた者もまた、不死性を獲得するとされる。
◆玄児は何故<十角塔>に幽閉されていたのか?
玄児が産まれてきたとき、母親であるカンナが亡くなってしまったため、
カンナを深く愛していた父・柳士郎に憎まれ、幽閉されたと当初説明されていた。
実際は、父親が卓蔵(後に、玄遙と判明)である「罪の子」であったため。
◆あの青年は何者なのか?
河南忠教(えなみ ただのり)。元々の苗字は諸居。
後に母親の静が江南姓の男性と結婚したため、姓が変わっていた。
ただし、実は玄遙とカンナの子、玄児であり、
火事による記憶喪失を利用して、玄児と忠教の入れ替わりが行われた。
◆<惑いの檻>とは?
桜が自殺を図った際、心肺蘇生術により呼吸は戻ったものの、意識は戻らなかった。
この状態を指して玄遙は、惑い、つまり、生でもなく死でもなく、
その狭間にいてどちらへも行けずにいる状態であると定義し、
浦登家にとって最大の禁忌である自殺を試みた罰であるとした。
地下墓所は完全な死者だけでなく、そういった惑いの状態にある者も閉じ込めるためにも
使われるようになったため、惑いの檻の異名で呼ばれ始めた。
◆諸居静とはどんな女性だったのか?
元浦登家の使用人。1931年にカンナが亡くなって後、柳士郎と関係を持つようになり、
翌年に子を出産。1940年の火災後、暇を出されて浦登家を去ることになったが、
柳士郎から実の子、忠教を浦登玄児として暗黒館に残し、
玄児を諸居忠教として静が育てるよう要請される。
その際、条件として、ダリアの肉を食することと、
子供が浦登家の縁者であることを示す品物を持たせることを求め、容れられた。
1945年8月9日、長崎で被爆。そのせいで、数年後に白血病を発症して苦しむが、
ダリアの肉を食していたために、病気では死ねず、最後は忠教に首を絞められて死ぬことができた。
◆十八年前、卓蔵は何故玄遙を殺したのか?その現場で起こった「人間消失」とは?
卓蔵が桜と結婚した時点で、桜は玄遙との子を妊娠してしていたが、それを承知の上で、
不死の血と地位、役職の保証を条件に浦登家に入った。
その後もひたすら玄遙の傀儡として存在し続けてきたが、それに耐えきれなくなって
玄遙を殺し、自らも自殺したと作品当初は説明。
しかし、玄遙を殺したのは卓蔵ではなく、柳士郎であり、
卓蔵もまた柳士郎に殺された、が真相。理由は、玄遙は柳士郎の妻、
カンナを襲って玄児を産ませ、卓蔵は玄遙に言われるままに
その罪を被った共犯者であるため。
「人間消失」は、幼き日の玄児が見た、犯人らしき人物が実は玄児本人であったことに
気が付かなかったことで生じた現象。
秘密の回転扉が、倒れた玄遙の腕に引っかかっていたため、第二書斎の入り口に向けて、
裏面、すなわちダリアの鏡を向けた状態で静止していた。
鏡というものの存在を知らなかった玄児は、鏡に映った自分を自分と認識できず、
犯人がそこにいると認識した。
その後、引っかかっていた玄遙の腕が外れて、回転扉は元の壁に戻った。
これが人間消失の真相。
◆影見湖を染めた「人魚の血」が「吉兆」であるとは?
日本では古来、人魚の肉は不老不死をもたらすもの考えられていた。
人魚が住むという伝説がある影見湖の「水が人魚の血で染まる」という言い伝えが
吉兆であるとは、一種の験担ぎであると玄児は語っている。
“不老不死の聖地”というのは、そこには云ってみれば、験を担ぐ、みたいな意識が
あったんだろうと思う。人魚を不老不死の象徴として捉え、そのそばに身を置くことで、
よりいっそう自分たちの存在の特異性が保証される、というふうに。
影見湖の水が人魚の血で染まる、という例の云い伝えについても同じさ。
◆早老症は浦登家に生まれるものにとって宿命的なリスクである、とは?
この宇宙において、「生」の総量、絶対量が定まっていると仮定した場合、
不死性を獲得した浦登家の人々の登場は、「生」の量的均衡を崩す存在である。
こういった偏りを正そうとする力がここで働いた結果、
浦登家には、ある確率で不死や不老とは真逆の素因を持つ、
早老症の人間が生まれてきてしまうのではないか、と玄児は仮説を立てていた。
◆望和について、玄児が述べたこと。「死にたいと願っても彼女は死ねない」とは?
望和は浦登家の一員として、当然、ダリアの日の宴にて、ダリアの血肉を食している。
そのために、不死性を獲得しており、死にたいと願っても死ねないという意味。
ここからはその他の謎について確認していく。
◆「中也君」の本名は?
本名は中村青司。館シリーズの主人公ともいえる奇妙な館たち、
十角館、水車館、迷路館、黒猫館などを設計した建築家であり、
江南(かわみなみ)や、鹿谷らが執着する存在。
◆暗黒館を昔に改造した中村某という建築家は誰?
浦登征順のこと。望和と結婚して浦登家に入るまでは、中村姓であり、
若手建築家として活躍していた。
作品の舞台の「今」が、江南(かわみなみ)が暗黒館を訪れた1991年ではなく、
1958年であること、また、「中也君」が青司であることを読者に悟られないために、
散りばめられた仕掛けの一つ。
◆1991年の暗黒館で、シューベルトのピアノ・ソナタ20番を弾いていたのは誰?
1958年に、美鳥と美魚の二人が弾いていた描写があったため、美鳥と推測。
1991年時点では49歳か。
◆「家人に一人、優秀な医師がいるのです」
誰のことを指しているのだろうか。1958年の火災から難を逃れた浦登家の人々は、
征順、美惟、美鳥、清の4人と思われる。この中に、1958年時点で医師だった人物はいない。
この発言をした征順を除いて考えた場合、残り三人及びその配偶者、子供があり得る。
まず、美惟は1958年では41歳(91年では74歳)。
火事後もびっくりしたままだとすると、再婚している可能性は低いと考えられる。
清は1958年では9歳。20まで生きるのは難しいと言われていることから、
自身、配偶者、子供含めて可能性は低い。
残った美鳥は1958年では16歳(1991年では49歳)。自身が医師というのは、
16歳まで学校に通っていなかったことを考えると難しい気がするが、
配偶者及び子供であれば、可能性は十分。
※ダリアの祝福により復活した者がいた場合、上記の限りではない。ただし、
柳士郎、玄児は復活していないと考えられる。その二人が復活していた場合、
1991年時点での当主が征順ということはあり得ないため。
<次回作>
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